- ナノ -


大筒木編

-愛-



インドラはセンリに甘える事はなく、以前のように会えば淡々と話をし、修業に励んだ。


紅葉は秋風に散り、村にはまた雪が降り、寒い冬がやってきた。


いつもなら共に遊んでくれるアシュラがおらず遊び相手がいないので、センリは毎日のように村の子どもたちと雪遊びをした。子どもたちと触れ合う時間は楽しかった。

フタミに雪合戦を挑もうと後から雪玉を投げると、呆れられた。フタミももう五十に近い。いつまでも若いセンリとは違うのだと延々と語られてしまった。

そんな時は仕方なくカルマを呼び出し実体化させて遊んだが、如何せんカルマは光の化身。寒さはあまり得意ではなかった。センリはカルマが体に取り込んでいる(というのかは分からないが)、神樹の力の一部である氷の技を使えるため、この世界にやってきてからは非常に寒さに強くなっていた。朝から晩まで寒空の下にいても全く問題は無い。

時々呆れ顔のインドラがやってくるので、雪だるまを作ろうとせがむが、一緒に作ってくれる確率はとても低かった。「手が冷たくなるので嫌だ」と言うインドラのために両手を包んで暖めてやったが、インドラは眉をひそめてまた呆れたような表情をするだけだった。
そして二言目にはいつも「子ども扱いするな」なので、それを聞く度にセンリは苦笑していた。そうしているつもりは全くないからだ。


冬が終わり、春になってもアシュラは帰ってこなかった。村人達はアシュラはもう帰っては来ないのではないかと思い始めていた。


しかし春の桜も散り始め、田植えの時期になる頃、アシュラは帰ってきた。一人ではなく、たくさんの人を連れて。


センリは急いで山から練習場へと駆けつける。


そこには既にインドラと、少し日焼けして凛々しくなったアシュラがいた。センリはアシュラにニッコリしてハゴロモの隣へ立つ。

「父上、ただ今戻りました」


アシュラが頭を下げる。


「凛々しくなったな、アシュラ」


「待ちわびたぞ」


インドラも一年ぶりに弟に会えて少し嬉しそうだった。


『みんな心配してたんだよ。無事に帰ってきてよかった』


「申し訳ありません兄さん、センリ姉さん。俺の力では行った村の問題を解決するには長い時間が必要でした」


アシュラは苦笑いしながらいつもの様子で話した。


「その者達は?」

ハゴロモが聞く。アシュラの後ろには十人ほどの見慣れない顔。


「村の方々です。みんなが俺を助けてくれました。今では大事な仲間です」


アシュラが誇らしげに皆を見る。

「この里の話を聞きどうしてもこの目で見たくてアシュラさんと共に参りました」


黒髪の可愛らしい娘がハゴロモに向かって言う。


「よくいらした。アシュラ、話を聞こう」

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