- ナノ -


大筒木編

-二人の生き方-



しかしそれから二ヶ月しないうちにインドラは村に戻ってきたのだった。
センリは村の見回りをしたり尾獣たちと遊んだり、村人達とお茶会をしたりハゴロモと過ごしたりとずいぶん忙しく過ごしていたので、本当にあっという間に帰ってきたように思えた。


「ただいま戻りました」


インドラはハゴロモの前に膝を付く。外見には変わりはないようだった。


「よく戻った。…で、首尾は?」


「万事仰せのとおりに」


インドラは無表情のまま答える。


「何か問題は?」


「ありません。村には平穏が戻りました」


ハゴロモの質問にインドラは淡々と答える。すると横で見ていたフタミがハゴロモの前に進み出る。

「ハゴロモ様、インドラ様が先に戻られました。という事は忍宗の後継者は…」


しかしハゴロモが立ち上がる。

「わしは物事の速さを問うたのではない。アシュラの帰りを待つ。決めるのはそれからだ。よいな?インドラ」


インドラは「はい」と返事をした。ハゴロモはそれを確認して、練習場を出て行った。


―――――――――――――――――――

『インドラ』


センリはいつもの場所で、いつもと変わらず修業しているインドラに声をかけた。

村に戻って二週間、前にも増してインドラは修業に励むようになった気がする。


「センリか」


センリはインドラに手拭いと竹筒に入った水を差し出す。インドラは石に腰掛けそれを飲んだ。ちょうど喉が渇いていたところだった。


『今日は暑いんだから、ちゃんと水分取らないと倒れちゃうよ』


額に汗が光るインドラを見ながら、センリは苦笑いする。季節は秋だが、今日は特別暖かい。


「…センリは俺の心が読めるのか?俺が欲しいものを、欲しい時にいつもくれる」


インドラが真顔で真剣にセンリに問い掛ける。あまりに真剣な眼差しなので、センリはふふ、と笑い声を出す。インドラは少し不機嫌そうに眉を寄せた。


『赤ちゃんの時から見てるんだから、当たり前でしょ』


センリは正直なことを言った。修業に励んでいる時は特に、周りが見えなくなるインドラは休むのを忘れる事がある。それくらい近くで見ていればすぐに分かることだ。

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