- ナノ -


大筒木編

-全ての始まりと-



川まで下りて、そこで魚を捕る。センリは運動神経はかなりいい方だった。下流に石を積み上げそこに魚を追い込み手掴みで魚を捕り、それらは串に刺して塩焼きにする。

木の枝を集めたところにセンリが 手をかざすと、ボッと音を立てて火がついた。その炎は白い。しかしゆらゆらと揺らめくそれは触れば当然火傷するほど熱く、普通の火と何ら変わりはない。


「(だんだんと自分の力を操れるようになってきておるな)」


センリは地面に腰を下ろし、魚が焼けるのを待った。


『ねえ、そろそろあなたのこと、教えてよ。今夜その…世界に影響を与えるかもしれないなにかが来るんでしょ?その時になったら教えるって言ったじゃない』

センリは何も居ない空間に向かって話し掛ける。


「(良いだろう。我も御主のことはこの三ヶ月でよくわかった。少々馬鹿だが、自然やものを無条件に愛する心がとても澄んだ人間だ。改めて御主の心の強さを感じることができた…。少々馬鹿だが)」

『褒めてるの?』

センリはきょとんとして言った。神鳥はセンリの頭の中でフッと笑った。


「(ふむ…夜までには時間がある。少し昔話をしよう。
まずは、この世界のことについてだが…。我も詳しくはわからぬ。

ただ言えることは…世界は一つではない。御主が元いた世界の他にも“世界”は多々ある。果てしない宇宙にある…ここはその中のひとつだ。我は光として時と時空を飛び、そして偶然ここに神樹の魂が降り立つのを見て後を追って来た。
我は神樹の暴走を押さえるために神樹の守り神として何千年も神樹と共にいた。そのうちにどこからか人間がやって来て、だんだんと増えていった。

困ったことに、神樹は人の味を覚えてしまった…。
それから我は神樹になるべく人間が近づかぬように丘をつくり、そこに住み着き人間を足止めしていた。

だが…我と神樹が仲が悪かったかと言われたら、そういうこともない。神樹にも奥の奥に心がある。そしてその心は本当は生命を奪うことを望んでは居なかった。御主も神樹に触れてわかったであろう?あれは“絶望”の塊だが…その実には“希望”も残されている。しかし、その本質を心から理解し“希望”に気づける者はいないであろう。
だから神樹の実を口にしてはならぬ。そう、我が人間に広めた。人間は我を神樹の守り神鳳凰として、神樹とともに崇め讃えた。

この世界はいずれ窮地に陥る。時空を操る光である我には分かる。そしてそれを救う為には救世主がいる。だから御主を呼んだ。そしてこの三ヶ月我の力の制御方法と使い方を叩き込み、御主自身の中の本当の力を呼び覚ますことに精進した。)」


センリは三匹目になる魚を頭から食べながら話を聞いていた。

神鳥がセンリの中に入ってから髪も黒から神鳥と同じ白銀になってしまったし、確かにこの三ヶ月、修行という名目で恐ろしいほど扱かれた。神鳥はセンリの中から出て分身体として実体化できるがその人間もどきに死ぬのではないかというほどこってり絞られた。

体術から始まり、剣術、それから超能力のようなものまで。刀や弓矢などの道具は神鳥が簡単に作り出せた。元々運動神経は良かったが格闘技レベルの体術だ。
センリは力が余りなく筋肉もない。その代わりセンリの中にある精神的エネルギーという見えない力を筋肉に纏わせる、ということをすると格段に体術がうまくなった。


特に弓矢を使うのはセンリの得意分野だった。神鳥がセンリの姿勢や歩き方が綺麗だと指摘し、身体の芯が真っ直ぐなことで弓術が向いていると薦めると無経験だったにも関わらずセンリは瞬く間に腕が上達した。


精神的エネルギーというのはセンリの中に元々あるものらしくセンリの場合それが膨大な量らしい。確かにセンリは元いた世界で触れてもないのに何かを動かせたり、傷の治りが異常に早かったりと人と違うことはたくさんあった事を思い出した。

そして神鳥が入ったことにより神鳥の力もそこに加わった。といってもなにが神鳥の力なのかはセンリも今のところわかっていないようだった。むしろこういうことができるのは全て神鳥のお陰だと思っていた。一先ず、不死の体になってしまったということだけは理解した。


それから基本的なことが終わると火や水を操ったり、他の者を治癒する力まで隅々まで覚えさせられた。力を使うのは全身に巡った血液のように体にあるエネルギーをコントロールするという感じで、三ヶ月毎日練習するとできるようになった。



『救世主って…。私がそんなすごいものになれるかはわからないよ?いろいろできるのだってあなたのおかげでしょ?』


三匹目の魚も食べ終わらせて『ごちそうさまでした』と言いながらセンリが火に手をかざすとフッと消えた。


「(いや、ほとんどは御主自身の力よ。だいたい我の力は誰にでも渡せるものではない。普通の人間なら我が体内に入っただけで死ぬ。奇跡的に無事でも力を制御するなんて言うのは到底無理な話だ)」


『んん…なんでだろうね…。よくわかんないけど私とあなたは心身一体の……家族みたいなのものって事だよね?』


センリが真剣な顔で言い放つと神鳥はセンリの中でまた笑い声を上げた。


「(やはり御主を選んで正解だったようだ…。我は救世主として御主を選んだと言ったが、御主は御主のやりたいようにやればいい。御主は再びこの世界に生を受け生きている。ならば…今度こそ後悔せぬようにやればいい)」


『後悔……』
小さな声でセンリが繰り返す。

「姉さん…」


『っ………』
突然ズキン、と痛みが頭に走ってセンリは座り込んだ。こめかみ辺りが脈打つように痛みに揺れた。


「(無理に思い出そうとせんでもいい。じきにわかる日が来るであろう。いまはこの世界で精一杯生きればいい)」

痛みの向こうから聞こえる声に、センリは僅かに首を縦に振った。
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