大筒木編
-二人の生き方-
インドラとアシュラが村を出てから一週間が経った。
フタミは掃き掃除をしながら心配そうに空を見上げていた。
誰もいない練習場でハゴロモとガマ丸は酒を酌み交わしていた。もちろんセンリは飲んでいない。
「一体二人をどんな場所にやったんじゃ?」
センリがハゴロモとガマ丸の酒皿にお酒を注ぐ。
「簡単に言えば同じ問題を抱えている村だ。それをどう解決するのか、ワシはそれが知りたいのだ」
ハゴロモはガマ丸の問いに答える。
『本当におんなじような村なんだよ。どっちも神樹を讃えてて、でも神樹は本当はその地の養分を吸い取ってる。見つけた時はそのままにしてくるのが辛かったよ』
センリが二人の間に座り申し訳なさそうな表情をした。
「なるほどのう。センリが探してきたのか。二人のうちどちらにするかはもう決めたのか?」
「いいや、まだ決めていない」
ハゴロモは酒を一口飲む。
「二人がこの旅で成長し互いに支えあうようになってくれれば文句はないのだがな……ガマ丸、新しい夢でも見たか?」
ハゴロモがふと思いついたように言う。
「見たら教えて欲しいのかね?それはズルじゃろ」
ガマ丸に一喝されハゴロモは「ゴホン」と咳払いする。それを見てセンリがクスクス笑う。
「ま、お前とセンリを超えるくらい支え合える二人になれるとは思えんがのう」
ガマ丸が二人を見比べて言うとセンリは自慢げに胸を張った。
『まあね!だって息子も同然だもん。ずっと一緒にいたんだから息ピッタリだよ』
センリがニッコリして『ねっ』とハゴロモに笑顔を向ける。
「む……自分よりも風貌が若いセンリにそう言われると何だかおかしな気もするが」
ハゴロモが髭を撫でながら言う。
しかしガマ丸は心からそう思っていた。二人以上にお互いを分かり合い信頼し合っている人間は見たことがなかったからだ。
『確かに……いつの間にかこーんなに髭が伸びてるしね!』
センリはハゴロモの髭を引っ張る。
「やめんか、センリ。母親はそんなことはせんぞ」
『ええっ、いいでしょっ。さてはハゴロモよ、恥ずかしがっておるな?』
「何を言うか。もうわしは子供ではないのだぞ。大の大人が…」
『大丈夫、インドラとアシュラはいないから久しぶりに親子水入らずで過ごせるよ!ホラ、昔みたいにぎゅーってしてナデナデしてあげようか!』
そう言ってセンリはハゴロモに抱きつこうとするがハゴロモが何とか引っぺがそうとしている。ガマ丸は何だか嬉しかった。ハゴロモのこんなに砕けた表情を見られるのはセンリがいる時だけだった。
「さて、親子水入らずで過ごさせてやるためにわしはもう行くとするかのう」
ガマ丸は皿の中の酒を一気に飲み干し、ピョーンと飛び出す。ハゴロモはセンリを何とか引き離しガマ丸を見る。
「二人のところに行くつもりじゃないだろうな?」
「ゲコッ!」
ハゴロモの鋭い指摘にガマ丸が立ち止まる。
『くれぐれも見守るだけだよ』
ガマ丸は壺に入る前に二人の方を振り向く。センリとハゴロモがじっと見ていた。
「分かっとるわい!」
そう言って壺にギュウギュウと体を押し込めて消えて行った。
『よっし、ハゴロモ。散歩に行こうよ。今日はあったかいからきっと気持ちいいよ。インドラとアシュラはきっとやり遂げて戻ってきてくれる。それまで気長に待とう』
センリが腰を上げる。
ハゴロモは二人を待つまでセンリと共にゆっくり過ごすのも悪くは無いのかと笑った。
『なに笑ってるの?あっ…九喇嘛たちにも会いに行ってあげないと。きっと寂しがってるから!』
だがセンリには色々やる事があるようだった。
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