大筒木編
-二人の生き方-
「弟の方は優しい気性の持ち主になったようじゃの。じゃが写輪眼の力を受け継いだのは兄の方か」
二人が山を下っていくのをハゴロモとセンリは見つめていた。横にはハゴロモの半分ほども大きくなったガマ丸がいた。
「もしかするとあの弟は兄のことを思い里に戻らないかもしれぬぞ」
ガマ丸が確信を突く。しかしハゴロモは気にしていないようだった。
「そうなればそのときだ」
「そうまでして何を試したいのじゃ?」
ガマ丸がハゴロモに聞く。
「試したい訳ではない。兄は優秀だが力がある故に愛を信じていない。弟は出来が悪いがその心は愛に満ちている。この世界にこれから忍宗は多大なる影響を及ぼすだろう」
ハゴロモが言いたい事はセンリにはよく分かっていた。
『忍宗が間違った道に行かないようにするには、力と愛、その両方が必要だってことを二人には気づいてほしいんでしょう?』
ハゴロモが深く頷く。
「ほう。さすがセンリはよく分かっておるな。じゃがそれは不死であるお前が導くのが一番手っ取り早いんではないのか?」
センリはちょっと困ったように笑った。
『確かに私は不死だけど、それじゃ多分意味が無いと思うんだ。自分の力で気付くことが大事なんだと思う。それを手助けするのが私たちの役目。次の未来にそれを気付かせて託すのが私たちのする事だと思うから………ちょっと口出しする時もあるけどね』
センリは悪戯っぽく言って頭をかく。ハゴロモは思い深そうにセンリを見る。
たしかに自分もそうだった。力が何なのか分からなくなる時もあった。だがいつだってセンリという光が自分の道を照らし導いてくれた。センリにはいつまでも人々にとっての光であって欲しい。センリだけは汚れずに綺麗なままでいて欲しい。そうやって自分の息子達にも気づいて欲しい。
『インドラは愛を知らないわけじゃないと思うんだ。ただ、自分自身でそれを封じてるような…何だかそんな感じがするんだよね。本当の愛情は誰にでもあるんだって、すぐ近くにあるんだって、今回の旅でそれに気づいてくれればなあ…』
風が吹きセンリの絹のような、不思議な輝きを放つ白銀の髪をさらう。
何処からか美しい蝶がひらひらと飛んで来た。蝶はセンリの周りを舞った。センリの蝶の方に手を差し出すとまるで導かれたようにその指先に留まった。微笑むセンリの瞳は澄んでいた。いつまでも美しいその姿にハゴロモとガマ丸は目を奪われた。センリはまるで慈愛に満ちた女神のようだった。
[ 62/78 ][← ] [ →]
back