大筒木編
-二人の生き方-
ハゴロモも普段はあまり何も言わなかったが、心の中ではインドラのことを心配していた。
もうすぐ二人はカグヤを倒した時のハゴロモたちと同じ歳になる。後継者を決めなければいけない時期になってきたが、ハゴロモはどうも思うところがあるようだった。
“インドラの目を見るとカグヤを思い出す”そう言うハゴロモの目はどこか憂いを含んでいた。
しかしセンリも、インドラにカグヤの影を見ることがあった。だからこそインドラを放っておけなかった。
ハゴロモは二人の息子に極力余計な口出しはせず見守っていたが、センリはそれとは対照的だった。インドラの口数が少なくなろうと、村の人々が怖がろうと、変わらぬ愛情を注ぎ、そして昔と変わらず話しかけた。
―――――――――――――――
『インドラ、もうすぐ練習場での修業の時間だよ!』
独りで森で修業に励んでいるインドラを、センリが木の上から呼ぶ。センリを見上げるインドラの額には汗が光っていた。
「もうそんな時間か」
インドラが太陽の位置を見る。たしかにもうそろそろ皆の修業を見る時間だ。
「まだ少し時間がある。センリ、手合わせしてくれ」
インドラは再び木の上にいるセンリに視線を移す。どうやら拒否権はないようだ。センリは苦笑し、ため息をついて木から飛び降りる。
『わかったよ。少しだけね』
言うが早いがインドラはセンリに攻撃する。本当に容赦も何も無い。
しかしそんな容赦の無い拳も、センリの目には緩やかな速度で写る。カルマの手合わせの方がよっぽど難しかった。センリは繰り出される攻撃の全てを交わし、どう切り上げるか考えた。確かにインドラの動きは早いが、見切れないほどではない。軽々と攻撃を避ける。
「くっ……!」
インドラの蹴りを片手で止め、押し返す。チャクラを少し活用すれば、それも容易な事だった。
インドラはまだ一度もセンリに組手で勝ったことがなかった。
インドラは写輪眼を持っているが、センリには効かない。単純に己の力量のみの勝負だが、センリは自分に迫るインドラの右手をパシッと止めて、サッとしゃがんだかと思うとインドラの足を掬い、倒す。刹那の間、一瞬だ。
インドラは尻餅を付き、少しむすくれながらセンリを見上げた。
『ほら、行こうインドラ』
センリは座り込むインドラに手を差し伸べる。インドラは悔しそうな表情を浮かべ、視線を逸らした。
「……いつまでも子供扱いしないでくれ、センリ」
インドラはボソッというと一人で立ち上がる。
まったく時の流れとは本当に早いものだ。センリは大きくなったインドラの背中を見上げて、苦笑いする。負けず嫌いなところはずっと変わらない。
「…いつまでたってもセンリには敵わない」
インドラはセンリに背を向けたまま、小さく呟いた。吐息とともにふとこぼれ落ちたような、少し子どもっぽさの混じった声音だった。自分でも大人気ないと気付いたのか、それを払い除けるようにインドラは服についた砂埃を払った。
『私は強敵だぞーっ!』
センリは笑ってそう言うと、インドラの背中に飛び乗る。
「う、わ。何をするんだセンリ」
インドラはそう言いながらも、おぶさるセンリの足裏に手を回し、しっかりと背に抱える。
『練習場まで走れー!修業だ修業!』
センリはインドラの後からビシッと指差し号令をかける。インドラは怪訝そうにため息をつく。
だがその表情はどこか嬉しそうで、センリを降ろすことなくそのまま山を下ったのだった。
インドラはセンリを大切に思っていた。
だからこそ、センリだけには自分の考えを認めてもらいたかった。
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