大筒木編
-二人の生き方-
センリが牢のある森の洞窟に行くとそこにはやはりアシュラとインドラがいた。どうやらアシュラはタイゾウを逃がしたようだった。
だが、センリがふたりを見つけたその瞬間、インドラはアシュラに殺気を放つ。
「掟を破るならお前が代わりに罪を償え…!」
なんとインドラはアシュラに向かって攻撃した。アシュラは寸出のところでインドラの拳を交わす。
「やめてくれ、兄さん!……あぐっ!」
しかしインドラは容赦なくアシュラを蹴り飛ばす。アシュラは木に背中から吹っ飛び、ずり落ちる。インドラがアシュラに向かって行こうとしたその手をセンリが止める。パシ、と乾いた音がしてインドラがピクリと反応した。
『やめなさい、インドラ』
インドラはセンリが突然現れたので面食らっていた。察知できないほどの速さだった。
珍しく鋭い表情で自分を見上げる瞳に歯向かおうとはせず、インドラは無言でセンリの手を振り払い、そして地面に座り込むアシュラに近づく。
「掟は何のためにある?忍宗の力は何のためにある?自分で答えが出せぬならお前は私に従えばいいのだ。頭を冷やせ」
そう言い放ちインドラは去って行った。
アシュラは背を痛めたようで顔をしかめている。
『アシュラ、大丈夫?』
センリはアシュラの背中に手を当て傷を治す。アシュラは悲しげに頷く。
『…大丈夫。インドラはきっと分かってくれる。アシュラのお兄ちゃんだもの』
見上げるアシュラの頭をセンリはポンポンと撫でる。アシュラの表情は曇っていた。
同じように今夜は曇っていて、星々の明かりは見えなかった。地上に月の光が届かない夜だ。
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