大筒木編
-二人の生き方-
インドラはそれからも態度を変えることなく、自分にも人にも厳しく接した。
アシュラは相変わらず明るく、センリにもよく話しかけて来たが、インドラの方はそうではなかった。
十八を迎え、思春期ということもあり、インドラは必要な事以外はセンリともハゴロモとも話さなくなった。
しかしそれでもインドラは、ハゴロモとセンリを尊敬はしているようだった。
親離れ子離れは必要な事だ。しかし厳しすぎるインドラを放っておく事は出来なかった。
ハゴロモは、インドラとアシュラのやることには極力口出しをせず黙って見ていることが多かった。ハゴロモにもハゴロモなりの考えがあることをセンリは分かっていた。
しかし、見ているだけでは防げないこともある。
外が騒がしいと思い、外に出てみると屋敷の前でなにやら誰かが捕らえられ倒れている。なにか罪を犯したのだろうか。センリは急いで近づく。
「兄さん、これはどういうことです!」
するとアシュラが階段を焦りながら降りてくる。良く見ると捕らえられているのはタイゾウだ。
「この男は罪を犯した」
『インドラ、どういうこと?』
センリが駆け寄り、インドラに問いかける。
「樹木を伐採し己の財とした。里のものは里全員のもの、それが掟だ」
センリは話が読めなかったが、アシュラは心当たりがあるようだった。
「罪はお前にもあるぞ、アシュラ」
インドラが厳しく言う。アシュラは動揺した。
「えっ…」
「お人好しが過ぎるぞ。お前はこいつに騙され、罪の片棒を担がされたのだ」
アシュラはハッとしてタイゾウに駆け寄り、起こす。
「伐採って…あれ嘘だったのか」
「母ちゃんが病気で急いで薬が必要だったんだ。すまないアシュラ。お前を巻き込んじまって」
タイゾウは申し訳なさそうにアシュラに謝る。
どうやらタイゾウがアシュラに嘘をつき、木を伐採させそれをお金に変えていたようだ。タイゾウの母は病気だったのかとセンリは驚いた。
しかしタイゾウの母は忍宗を嫌っていた。だから忍宗で治すことを拒んでいた。
「忍宗を信じようが信じまいが掟は掟だ。アシュラ、お前は何も知らなかった。今回だけお前の罪は不問に付す」
インドラの独断にさすがにハゴロモも前に出た。
「だがこれはやり過ぎではないのか?人は誰でも間違いを犯す。人を裁くことには慎重でなければならない
」
『確かにそうだよ、インドラ。インドラの言いたいことも分かる。でもタイゾウの言い分も聞かなきゃいけない。誰かの罪を裁くのは、独断じゃダメだよ』
しかしインドラ頷くことなく、強い眼差しでセンリとハゴロモを見た。
「分かっています。ですが罪には罰となる力を毅然と示さねばなりません。それが新たな罪の抑止力となります」
ハゴロモは相変わらず険しい表情をしていたが、インドラは問答無用でタイゾウを牢に入れてしまった。
その夜、センリはハゴロモのところにいた。
『インドラ、少し様子が変だよ』
ハゴロモも同じ気持ちのようで、少し心配そうな眼差しだった。
「アシュラは十中八九、タイゾウを牢から逃がすだろう。インドラは少し自分を見失っているようだ」
センリは空に浮かぶ明るい月を見る。何のために友を封印したのか。なぜ人は力に飲み込まれてしまうのか。
いや、自分がすべき事は考えることじゃない。
『ハゴロモ、私ちょっと見てくるよ』
ハゴロモは頷き「頼む」とセンリを送り出す。
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