大筒木編
-二人の生き方-
それから数年の間にインドラの様子はだんだんと変わっていった。髪も伸び、顔も凛々しくなったが、外見ではなく心の話だ。師範となってからは修業も本気でやるようになり、厳しくなっていったのだ。
―――――――――――――――――
「はっ!」
インドラは組手では負け無しだった。写輪眼もうまく使いこなし、的確に相手を倒した。しかし容赦もなかった。
「すげー」
アシュラがそれを横目に見ていると、きつい一発を食らってしまい、倒れる。アシュラはまだ組手で勝ったことがなかった。
「もっと気合を入れろ。アシュラ、お前もだ。そんなことでは忍宗は使いこなせないぞ」
負けた者とアシュラに一喝するインドラ。二人はしゅんとする。
「うん……ごめん」
アシュラは謝るが、インドラの表情は厳しいままだ。
「写輪眼を開眼してからインドラ様の成長は素晴らしいですな。規律を重んじ指導者としての態度も堂に入ったものだ。これならいつでも忍宗を継げる」
フタミが誇らしげにウンウンと頷くが、隣にいるセンリとハゴロモの表情は浮かなかった。
『(インドラ……)』
人々が、インドラは厳しすぎると愚痴をこぼしているのも聞いたことがある。インドラは確かに強くなったが、人の気持ちを慮る事があまり得意ではないように見えた。
「センリ姉さん」
夕方、センリが夕食の準備をしていると戸の影からアシュラが現れた。周りをキョロキョロ見回している。
『どうしたの?もしかしてもうお腹空いた?修業頑張ったもんね』
アシュラは苦笑いしながら、センリの後ろの椅子に座り込む。アシュラがこうやってコソコソとセンリに会いに来る時は、大体なにかに悩んでいる時だった。
「ねえ、センリ姉さん。姉さんも最近気づいてるよね?兄さんが厳しくなってること」
アシュラは少し小声でセンリに話しかける。どうやら悩みの種は兄のことのようだ。
「さっき兄さんに、もう少し修業のときみんなに手加減してほしいってお願いしたんだけど……オレ、実力もないし弱いから、兄さんが本気にしてくれるか分からなくて。最近兄さん、何だか行き過ぎてる時があるような気がしてさ……」
アシュラは盛大にため息をついた。センリは少し微笑み、米を炊く手を止めてアシュラの方を向く。
『インドラが怖い?』
「そういう訳じゃないんだけど……オレは前みたいな兄さんに戻ってほしいだけ。みんなに優しかった兄さんに」
アシュラの切実な願いだった。インドラが冷たくなったのはセンリも気づいていた。だが修業以外で、センリと話す時など、インドラは笑う事もあるし昔と同じように話も聞く。年相応の成長はしているが、あまり変わったようには感じない。
しかし修業となると人が変わったように冷たくなるのもまた事実だった。
「ねえ、今度姉さんからも言ってよ。センリ姉さんの言うことなら、兄さんも聞いてくれる」
アシュラは思いついたように言う。よほど心配なようだ。
『うん、分かったよ。今以上にインドラが修業に厳しくなり過ぎるようだったら、私から言っておくね』
アシュラは途端に笑顔になる。センリはアシュラと指切りを交わした。
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