- ナノ -


大筒木編

-インドラとアシュラ-



それから演習のための建物を作り、そこでハゴロモはアシュラとインドラの修業を見た。

インドラは見事に四人もの完璧な分身を作り出せたが、アシュラは一人どころかヘナヘナの人形一体だ。さすがのハゴロモも苦笑を隠せない。センリは楽しげに笑い声を上げた。

そして次の組手でもアシュラはインドラに圧倒され、すぐに負けてしまった。


カーン!カーン!


昼を告げる鐘が成り、アシュラが待ってましたというふうにパッと体を起こす。


「修業終わりだ!オレ、タイゾウたちと遊んでくる!」

輝く笑顔でそう言うと、アシュラは駆け足で練習場を出ていってしまった。先程まで手合わせしていたとは思えない程に俊敏な動きだ。元気が有り余っているようだった。


「私はもう少し裏山で修業してきます」


インドラがハゴロモに向かって頭を下げる。センリはインドラに水を手渡しながら頭をそっと撫でた。インドラは恥ずかしそうに視線をずらしたが、その手を払い除ける事はしなかった。


『私も行こうか?』

「ううん、一人で大丈夫。センリはアシュラの所に行ってあげて」


インドラはそう言って修業をしに出て行った。少し前まではインドラに食い下がっていたが、もうそんな事をする歳でもないだろうとセンリはその背中を見送った。


「どうやらハゴロモ様の力は見事インドラ様に引き継がれたようですな。ですがそれでよかった」


ハゴロモの側近のフタミがウンウン一人で納得して、腕を組みながら言う。


「なぜだ?」

「いつか後継者を決めるなら長男が継ぐのが世間の習わし。もし弟が継ぐとなれば揉めごとの種ですからな。インドラ様の忍宗の才能なら誰も文句を言いますまい。これで忍宗は安泰ですな」



フタミは意気揚々と言っていたが、ハゴロモは何か考えるようにインドラとアシュラが出て行った後を見ていた。


センリはアシュラのところへ行くため、外に出て探した。


「タイゾウとアシュラたちなら森に行くとか言ってたよ!イノシシに会うんだって」


畑の側を歩いていた少女に尋ねると、近くにある森を指差す。そこは最近村の畑を荒し回っているという獰猛な大イノシシがいる森だった。センリは嫌な予感がして急いで森に向かった。

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