- ナノ -


大筒木編

-インドラとアシュラ-



インドラとアシュラは元々人よりチャクラ量が多かった。故に扱うのが難しく、アシュラはなかなかうまく行かないようだった。

アシュラはセンリに修業を付けるようにお願いし、たくさん練習したが、やはりコントロールがうまくできなかった。

そんな弟を差し置き、インドラはハゴロモと一緒にみんなの修業を見守るまでになった。


「センリ」

ある日の午後、センリが屋敷の縁側で日向ぼっこをしていると後ろから自分を呼ぶ声がした。振り返るとそこにはインドラがいた。


『インドラ、みんなの修業、終わったんだね』


インドラは小さく頷くと、センリの隣にそうっと腰掛ける。もぞもぞして、何か言いたげだ。


『どうしたの?』

センリがそんなインドラに気づき、優しく問いかける。するとインドラはどこか安心したように小さく息を吐き、口を開いた。


「あのね…父上にもさっき聞いたんだけど…。これでよかったのかな、って」

唐突なインドラの言葉にセンリは首を傾げる。


「印と術によって、これからそれが武器となってこの世界に戦いをもたらすかもしれない。父上とセンリが作ってきた世界を壊すことになるかもしれない。最近すごく思うんだ。これで良かったんだろうかって。父上は「チャクラが武器となるならそれを制御するための更なる心の修業を積めばよい」って言うんだけど…――」


インドラの表情は珍しく曇っていた。賢いインドラの事だ、幼いながら本当に忍宗の行く末を案じ、悩んでいるのだろう。


『インドラ』


センリはインドラの方に顔を向ける。インドラはセンリの瞳を見上げた。


『インドラはよく考えてるんだね。素敵なことだよ。でも…たしかにハゴロモの言う通りかもね。時間はどうしたって進んでいく。今術を発明しなくても、いつか違う誰かがそれを考えついたかもしれない』

「父上も同じこと言ってた」


インドラが少しとぼけたように目を開いて言うので、センリはクスッと笑った。


『そっか、ずっと一緒にいるからかな』


インドラはなぜセンリとハゴロモが皆に尊敬され称えられるのか、少しわかった気がした。それと同時にほんの僅かに羨ましさも感じていた。だがセンリの手がそっと頬を撫でたので、インドラはその心地良さに体を預けた。


『インドラ、確かに力っていうのは使い方を間違えると脅威にもなる。人を殺める事も出来る。誰かを傷つける事が出来る。私はそういう哀しい力を近くで見てきたから分かる。力は怖い………でもね、悪い事ばかりじゃない。誰かを守る事もできるんだよ。大切なのは心。どんなに力が強くても、そこに心がなくちゃ意味が無いと思うんだ』


インドラは静かにセンリの目をじっと見つめながら、その言葉の意味を考えるように聞いていた。


『大切なのは“力”だけじゃない。それもとっても大事だけど、インドラ…愛がなくちゃね、人は本当の意味では強くなれないんだよ。それを忘れなければ、きっと大丈夫』


センリはインドラの頭に手を置き、愛おしそうに撫でた。インドラは恥ずかしそうに俯く。


『忘れないでインドラ。あなたを大事に思う人はたくさんいるよ。あなたを心から愛してくれる人がいる。それを忘れないで』


インドラは照れたように視線を泳がせた後に、小さく頷く。いつも自分が欲しい安心感をくれる。言葉をくれる。
インドラはセンリが大好きだった。


「センリは死なないんでしょ?だったらずっと側にいてくれる?」


センリは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔になりインドラの額をつつく。


『もちろんいいよー!インドラが呆れるまでいてあげるよ!こうやってずーっと!』


センリはぎゅっと抱き着くと、「センリ!」と焦りながらインドラがもがいた。天才児と呼ばれようと、やはりインドラはインドラで、センリの大切な息子であり、家族であった。

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