- ナノ -


大筒木編

-六道仙人と陽光姫-



そして弟子達がたくさん増えると、ハゴロモとセンリの代わりに修復するため各地へと散っていった。忍宗が世界に広まることを信じて。


ハゴロモは旅を始めてから“六道仙人”(りくどうせんにん)と、センリは“陽光姫”(ひかりひめ)と呼ばれるようになり、それが世界に広まる頃、約六年間にも渡ったセンリたちの長い旅が一段落した。


そして村に戻ったセンリたちはその地を忍宗の総本山とした。


しばらくしてその村に入った一族の長の娘をハゴロモは妻に娶った。長い黒髪の、少しハオリに似た娘だった。

そして−−−。


『ハゴロモ、産まれたよ!元気な男の子!』


部屋にオギャーという元気な泣き声が響き、ハゴロモの妻は男の赤ん坊を産んだ。健康な、元気な男の子だった。


最初の子を産んでから一年経つと二人目の赤ん坊も産まれた。


しかし二人の母は産後の肥立ちが悪く、二人目の息子を産んでまもなく息を引き取った。


センリとハゴロモは悲しみに暮れてはいたが、二人の子を見て共に生きる覚悟を決めた。


ハゴロモはセンリに、二人の母になって欲しいと頼んだ。妻としてではなく、あくまで母親として。しかしセンリは首を振った。

いつか二人が大人になり、自分を本当の母でないと気付いたらどんな悲しい気持ちになるかと思ったらセンリはそうすることができなかった。


だが、ハゴロモの強い要望により、センリは大筒木の苗字を貰い、小さい時は二人の育ての母、そしてそれからは姉の様な存在としていることにした。

センリはハゴロモの子どもたちの育ての母にもなった。

現実的に言えば孫という存在なのだが、見た目も中身も年を取らないセンリにとって、三人目四人目の子どものような感覚だった。

ハゴロモは兄をインドラ、弟をアシュラと名付け、センリと共に大切に育てた。


センリは二人を産んだ母は亡くなったことを教え、自分のことはセンリと呼ばせるようにした。

乳児期は瞬く間に過ぎ、二人はすぐに大きくなった。


二人はほとんど普通の人間と同じだった。
角はなく、二人共目は黒色。成長過程もほぼ普通の人間のものだった。


ハゴロモとハムラは人間離れしたところが多々あったが、インドラとアシュラは普通の人間の兄弟そのものだった。


インドラは小さな頃からしっかりしていて、怪我をしたりしても絶対に泣かないとても強い子だ。アシュラが少しでも落ち込んでいると心配して慰める兄としての優しさもあった。インドラのかわいいところはセンリと二人きりになると普段のしっかりした様子とは途端に変わったようにずっとくっついてくるところだ。


アシュラは一言で言えば甘えん坊で、何かあるとすぐセンリに抱っこをせがんだ。好奇心旺盛でインドラのあとについて回り、そしてよく怪我をして泣く。しかし何よりもインドラを自分の目標にし、素直で正直な子どもに育った。


ハゴロモとハムラは割とセンリに頼らず兄弟で解決し、成長していくことがあった。だがアシュラとインドラはセンリをとても慕い一番近い家族として接した。

しかしハゴロモとハムラと同じところもあった。


兄は常に弟を思い、弟は常に兄を追いかけるというところだ。


二人は元気に成長し、共に大きくなった。
センリはまた人を育て、その体と心が成長していくのを見られるのがとても嬉しく幸せだった。

ずっと近くにいて過ごしてきた大事なハゴロモの子どもたちというのは本当に大切な存在となった。

センリは昔も今もあまり変わらなかったが、ハゴロモはインドラとアシュラにとって最高の、そして威厳のある父になっていった。


すべてを自分の目で見、感じ、触れ、育てていける事はセンリにとっての大きな宝だった。


『(カグヤ……見てる?あなたが残した“力”はちゃんと繋がってるよ)』

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