大筒木編
-六道仙人と陽光姫-
「やったぁぁぁああ!」
橋づくりを初めて二ヶ月弱、ようやく橋が完成した。大きな、とても立派な橋だ。ちょっとやそっとでは壊れはしないだろう。
「完成したな。壊しがいのある橋だ」
喜びの雄叫びをあげてセンリの手を引っつかみブンブン振り回しているフタミにハゴロモが近づく。
「何言ってんだ!こんな苦労して作ったのにぶっ壊せるわけねえだろ!」
フタミはさも当たり前のことのように言い放った。ハゴロモは声を上げて笑った。
『フタミ、手伝ってくれてありがとう!あなたはとってもいい事をしたね』
センリがフタミに言うとフタミは照れたように頬をかいた。
「わたし達は新たな地へ向かう時が来たようだ。達者でな、フタミ」
ハゴロモとセンリは、喜び合っている人々の間を抜け、橋を渡る。センリはハゴロモの隣に並び、フタミに手を振る。
「おい!待ってくれよ!」
しかし後ろからフタミが二人を追いかけてくる。
「オレも一緒に行くよ」
フタミは少し恥ずかしそうに言う。
『でも、あそこはあなたの仕事場なんじゃないの?』
センリが言うとフタミは苦笑いする。
「あんな立派な橋ができたら、俺の商売は上がったりだぜ!」
そうして二人にはフタミという仲間が増えた。
――――――――――――
夜になると火を燃やし、適当な木に腰掛け、三人は久しぶりにゆっくりと休んだ。
「善き行いをすると人々に感謝されて気分がいい。そして気分がよくなるために更に善いことをする。それが善き行いの輪廻だ」
ハゴロモがフタミに語るとフタミは感動したようだった。
「確かに…そう言われればそうだ。あんたいいこと言うな」
ハゴロモが発する言葉のひとつひとつをフタミはよく考えた。
「そういや…ずっと聞けなかったけど、あんたら一体何者なんだ?」
角が生え輪廻眼を持ち額にも写輪眼が宿るまるで鬼のようなハゴロモと、美人で優しい女性のセンリが共にいるのはさぞ不思議な光景だろう。
『私達は地上をめちゃくちゃにしてしまったの』
「まさか…前にあっちこっちで大津波や大噴火が立て続けにあったけど、まさかそれがあんたらのせいだっていうのか?」
フタミは立ち上がり、信じられないというように言った。
「そんなことが人にできるわけねえだろ。それにそんな力があるならさっさと橋を直せばいいじゃねえか」
ハゴロモとセンリはお互いの顔を見る。
「わたし達はもう余計な力を使わないようにと決めた。そうでなければ人々の心は分からぬ」
二人は戦いのために力を使うのはなるべくならしたくなかった。人と同じ目線に立ち、行動し、今度は心から分かり合いたかった。力でなどではなく、心で。
「手を出してみろ」
ハゴロモとセンリは立ち上がりフタミに向かって手を出す。フタミの左手をセンリが、右手をハゴロモが握る。
「なんだこれ?力が湧いてくる!」
フタミは感動したように叫ぶ。二人はフタミに自分の力を流し込んだのだ。
『いま、私達がフタミに力を分けたの』
「ふむ…“チャクラ”とでも呼ぼうか。いわば人と人をつなぐ力だ。そういうものであってほしいと私は願っている」
『チャクラか。イイね、力って感じ。みんなを繋ぐ力、チャクラ。分かりやすくなったね』
二人が話すのをフタミはしばらく放心状態で聞いていた。
「俺はそれをもらったのか?」
フタミはまだ何が起きたかわからないようだった。
「そうだ。だが誰にでも分け与えられるものではない。お前の心が私に近くなったからだ。お前は善の心を知ったのだ」
ハゴロモは語りかける。
『フタミならきっとこの力をちゃんと扱える。私達はこのチャクラを通して心が繋がり合えたってわけだね』
センリが微笑むと突然フタミが地面に手をつき、頭を下げた。
「何の真似だ?」
ハゴロモは眉間にしわを寄せ、センリはフタミの隣に行き、背中に手を当て自身も座り込む。
「俺をあんた達の弟子にしてくれ!俺はずっとつまらない人生を生きてきた。何の価値もねえ人生だ。だけどあんた達は違う。あんた達はきっと大きなことを成し遂げる人だ。だからあんた達といれば俺のチンケな人生もちょっとくらい価値が出ると思うんだ」
フタミはセンリの手を制し、力説した。
「人の役に立ちたくなったか?」
「…あの橋を造ったことは…あのとき喜んでくれた人たちの笑顔は俺の生涯の誇りだ。あのときのみんなの顔が忘れられねえ」
最初に会った時のフタミの顔とはまるで違う。その表情には迷いがなかった。
「きっとそれがあんた…いえ、ハゴロモ様とセンリ様の言った絆だ」
ハゴロモはフタミを立ち上がらせ肩を持つ。
「お前はわたしに大きなことを教えてくれた。センリ、わたしたちの旅にはもう1つ大きな目的ができたようだ」
センリはにこやかにハゴロモを見上げる。
『チャクラで、絆をつくるんだね』
ハゴロモは頷く。
こうしてハゴロモとセンリにはもう一つの大切な目標ができた。力ではなく人々が心で繋がることでカグヤが成し得なかったことを二人は目指した。そしてフタミはその目的を達成する為の二人の一番弟子となった。
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