大筒木編
-六道仙人と陽光姫-
しかし一際酷い雨風の嵐の日、二人がせっせと木材を運んでいるととうとう男は観念したように叫んだ。
「あぁぁぁ!もう!はやくしねえとせっかく集めた材木が流されちまうぞ!」
ハゴロモとセンリは顔を見合わせる。
「ほう、手伝ってくれるのか」
ハゴロモがニヤリと笑う。
「俺はさっさとあんたらにどっかに行ってもらいたいんだ!橋ができたら俺がぶっ壊してやる!それに…女が目の前で働いてんのを黙って見てられるか!」
男は乱暴にセンリが持っている材木を奪い取る。どうやら本当に手伝ってくれるようだ。
「わたしの名はハゴロモだ。こちらはセンリ」
ハゴロモが男に向き直って言う。
「俺はフタミだ」
『よろしくね、フタミ』
センリが笑って言うととフタミは目をそらしたが「おう」と小さく呟いた。
それからフタミは二人と共に橋の修復をした。
フタミが橋を直しているとどこからか聞きつけたのか、子どもがやって来てフタミに向かって悪口を言って去っていった。
「これでお前もわたしたちと同じだな」
ハゴロモが笑う。
「違う!俺は罪を償うつもりなんかねえ!こんな橋、出来たらさっさと壊して…」
フタミはぶつくさと文句を言いながらも、橋を作る手は止めなかった。
その様子は近くに住む人々に伝わり、遠巻きに観察する者もいた。
ある日センリが木材を綺麗にやすりで擦っていると今まで林の中から覗いていた村人達が続々と現れた。
「あんたら、橋を直してるんだってな」
初老の男が進み出る。後ろにはフタミのことを馬鹿にしていた少年もいる。
『橋がないと不便でしょう?』
センリが額の汗を拭い、ニッコリする。その笑顔を見て村人達は皆顔を見合わせる。
「俺達も手伝っていいか?」
センリは突然の申し出に一瞬キョトンとしたが、すぐにまた笑みを浮かべる。
『もちろん!人は多い方が助かる。ありがとう』
人々が木材に手を伸ばし、運び始める。すると橋の方からフタミが駆け寄ってくる。
「おいコラ、かっぱらうんじゃねえ!そいつは橋を造る材料なんだからな!」
フタミは勘違いをして怒鳴ったが、センリが制する。
『違うのフタミ、みんな手伝いに来てくれたの』
センリの言葉にフタミも驚く。
「オレ達が使う橋ですから!」
男がフタミに言う。
それからは二十数人の人手が増え、みんなで橋づくりを行った。フタミも子どもに優しく手を貸すようになった。みんなが一丸となり橋づくりをするのはなぜなとても気持ちが良かった。
ハゴロモとセンリはその様子がとてもうれしく、みんなが一つになる感覚が心地よかった。
そしてーーー。
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