大筒木編
-六道仙人と陽光姫-
しばらく歩くと川が流れているのが見えた。
『んっ?ハゴロモ、あれ』
センリが川を指差す。そこに掛かっていた筈の橋が、戦いの影響で真ん中から真っ二つに折れてしまっていた。
「どうやら一つ目の試練のようだな」
二人はその橋を直すことにした。
だが二人が瓦礫を片付けていると川のそばのテントのような所から一人の男が近寄ってくる。
「おいおいおい!なにしてんだ?」
『橋を直すんだよ』
センリがよいしょ、と壊れた木を運びながら男に答える。
「はあ?お前ら何余計なことしてんだよ」
その言葉にハゴロモが手を止めて男を見る。
「なぜ余計だ?橋はみんなにとって必要だろう」
「みんなにとって必要だから俺にはあっちゃ困るのよ」
男の言い分を聞くとハゴロモはまた手を動かし始める。
「面白いことを言うな」
『どういうこと?』
センリは苦笑いして男に尋ねる。だが瓦礫を片付ける事は止めない。
どうやらその男は、この橋が壊れているのをいい事に人の荷物を奪っている泥棒だった。
橋を渡らせてやるからと荷物を預かり、さっさと逃げてしまうのだ。
「だから余計なことをされると困るのさ」
男は開き直って胸を張って言った。
「だが橋を直して困るのはお前一人だ。多くの人は困らない」
すると男がハゴロモに向かって食ってかかる。
「てめえ!やめろって言ってんのが分からねえのか!」
啖呵をきったのはいいが、相手が悪かった。男はハゴロモの眼を見ると怯えて立ちすくんでしまった。ハゴロモは気にもとめず作業を続ける。
『ごめんなさい、別に怖がらせてるわけじゃないんだよ』
センリが苦笑いして男に謝る。男は少し安心したようだった。
「なんでお前達こんな事をするんだよ?」
男が木を品定めするハゴロモに向かって聞く。
「罪を償っている」
「お前達罪人なのか?」
「似たようなものだ」
男は訳が分からなくなったようだ。
するとそこに一人の旅人が通りかかる。男は旅人に嘘をつき、荷物を奪おうとするが、ハゴロモに正体をバラされ激怒した。
「おいテメエ!人の商売の邪魔すんじゃねえ!」
ハゴロモは全く動揺していない。
「わたしはこの橋を直すまでここを動かん。別の橋に行った方がいいぞ」
「俺たちにも縄張りってもんがあるんだよ。他のとこになんて行けるか!」
そう言って男は橋の前にドカッと腰を下ろした。
『だったらあなたも一緒に橋を直そうよ』
センリが男の顔を覗き込んでニッコリした。
「なっ…ふ、ふざけたこと言ってんじゃねえ!」
男は頬を赤らめてセンリからフイッと顔をそらした。
「まあいいさ、センリ。どちらにしろ完成すればわたしたちは他所へ行く」
するとハゴロモは側にある林から大きな木を切り倒し、橋の前へと運ぶ。それを邪魔しようと男は大木を持ち上げようとするがもちろん普通の人間の力では無理だ。
センリはオノでそれを木材の形にしていく。単純で気の遠くなる作業だが、二人は休みもせずに作業を続けた。
その様子をただただ男は眺めていた。
季節は秋。嵐の日も多く、日照りのような暑さの日も二人はやめなかった。
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