大筒木編
-六道仙人と陽光姫-
三ヶ月。
センリは今まででこんなに力を使った事は無かった。使い果たした、という言葉がしっくりきた。
終わった。
そう思った瞬間に体の中の力という力がすぅっと抜けていくような奇妙な感覚に陥った。気付くとセンリの体は逆再生するように幼い姿に変わってしまった。
しかしそんな事を気にするよりセンリも、ハゴロモもとにかく疲れていた。数日、二人は屋敷の中で死んだように眠った。
二人が同時に目が覚めると、センリの体も元に戻りもう日は高く登っていて、外に出て見ると、荒れ果てた光景が広がっていた。戦いの悲惨さを物語っていた。
「ガマ丸、世話になったな。お前に教わった仙力がなければ母上は倒せなかった」
ハゴロモとセンリはボロボロの服を新しく新調し、荒れ果てた地に足をつける。
「どうしても行くのか、二人共」
ガマ丸が階段の上から問いかける。
「ああ、わたしにはやらねばならない事がある。旅の目的は二つ。ひとつは十尾から分けた九匹の尾獣の住みかを探すことだ。この連中が互いに喧嘩をせぬよう、その力が人々に悪用されぬよう慎重に故郷を見定めようと思う」
三人は歩き出し、荒れてしまった地上を見つめる。
「ふたつめの目的はこの荒れ果てた地上を復元することだ。いくらセンリが十尾を押さえつけていたとはいえ…母上との戦いでわたしたちは地上に膨大な傷を残してしまった」
「そしてお前も着いていくというわけか」
センリはガマ丸に向かって頷く。
「…実は昨日夢を見た」
ガマ丸は静かに言う。蝦蟇の見る夢は十中八九現実のものとなる。ハゴロモがどんな夢だったかと聞く。
「白銀の女神がこの世を救い、そしてその時、九匹のケダモノの名を呼び戯れる碧眼の少年が現れる」
「再び乱世が訪れるということか?…ではわたしがこれからすることも無駄か」
ハゴロモが鋭く尋ねる。
「気にする必要は無い。避けようと思って避けられるのは運命ではないからのう。お前達はお前達の道を行くとええ。縁があったらまた会おうぞ」
「うむ、さらばだ」
別れの挨拶を言ってガマ丸はピョーンと水の中に飛び込んでいった。
『行こう』
二人は壊れた道を歩き出す。
それから二人の長い長い旅が始まった。自分たちの罪を償う為、地上を元に戻す為の長く果てしない旅だ。
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