大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
カグヤの意思が抜けた十尾は、また根をはり、神樹となりうる。
カルマはその力を九つに分散し、それぞれに新しい命を生み出した。
手のひらサイズの緑色の玉の中にはその尾獣たちが眠っている。それぞれが違った姿の生き物の赤ん坊でとてもかわいい。
「こうしてみるとみんなかわいいもんだな」
『ほんと。すごくかわいい』
ハムラとセンリがクルクルと回る玉に入った尾獣達を見て微笑む。
「それをどうするつもりじゃ?」
ガマ丸が不思議そうに問う。
「この尾獣たちは人間を信じて協力するように育てる。センリ、わたしとともにこの尾獣たちを世話してくれるか。それにこの尾獣たちの生みの親はカルマでもあるからな。カルマは尾獣の長として側に置きたい」
ハゴロモがセンリに聞く。センリは一瞬キョトンとしたがすぐに笑顔になって答える。
『もちろん!』
「それはセンリに適役だ」
ハムラも賛成した。
そして尾獣たちはハゴロモの中に入っていく。センリの体にはもうカルマがいるので入れないというわけだ。しかしセンリの意志だけをハゴロモの中に飛ばし、そこで実体化し、尾獣の世話をすることは可能だ。ということはセンリの中にいるカルマもそこについて行けるということ。
「兄者、センリ……俺は母上と一緒にいようと思う。十尾の抜けがらも見張ってなきゃならないし。それに洗脳されたとき母上の意識が俺の中にあった。その心を感じたんだ」
「ハムラ…」
ハムラが頭上に出来た明るい月を見上げながら言った。ハゴロモとセンリは驚いてハムラを見る。
「母上はずっと脅えていた。そして俺たちを守るために母上は母上なりの思いがあった。か弱い女性の一人なんだと思ったよ。俺は結局母上が好きなんだな」
そう言うハムラの顔は母親を想う表情そのものだった。
「ハムラ…お前は心の優しいやつだな」
ハゴロモが賞賛する隣でセンリは目を潤ませていた。
「だが、センリ。オレはセンリにもとても感謝しているんだ。オレ達をここまで育ててくれたのはセンリだからな。オレのもう一人の大切な母だ。これからも兄者を側で支えてくれ」
センリはハムラにぎゅう、と抱きつく。少し前までは両の腕に収まるほど小さかった子達が今や自分より大きくなり、世界を救った。何とも言えない感情にセンリは包まれていた。
『ありがとう、ハムラ』
震える声を絞り出し、センリは小さく呟く。
育てさせてくれてありがとう。ここまで大きく立派になってくれてありがとう。こんな自分を母だと言ってくれて、ありがとう。カグヤを好きでいてくれて、ありがとう……。
「泣かないでくれセンリ。綺麗な顔が台無しだぞ」
ハムラは笑ってセンリの涙を拭う。それはいつものハムラの優しさだった。
「俺はずっと空からセンリと兄者の作る世界を見守ってるよ」
ハゴロモは月に飛ばすための印を地面に描き、真ん中にハムラが立つ。
「たまには遊びに来い。そんなに遠いところじゃない」
『絶対また会いに来てね』
ハゴロモとセンリが別れの挨拶をする。
「そうするよ。二人共、達者でね」
ハムラの体が青く光り始め、それは散り散りになり輝く月へと登っていく。ハゴロモとセンリは弟の、最後の一欠片が空に登っていくまでずっとそこに立ち続けていた。
[ 40/78 ][← ] [ →]
back