大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
『ハゴロモ!ハムラ!』
二人はすでにボロボロで、かなり体力を消耗していたようだが、空中に浮いてカグヤの相手をしていた。
「センリ、あの神樹の化け物を倒したのか?」
ハゴロモが息を切らし、カグヤを注意深く見ながら問いかけた。
『ううん、結界の中に閉じ込めてきただけ。当分の間出られないと思う。もし結界が破られたら、また私とカルマが行くから』
センリは珍しくやや早口で伝えるとカグヤを見る。カグヤの長く多い髪の毛は逆立ち、まさに憤怒という表情だ。
「センリ……ワラワはお前を絶対に許さぬ!この……――――裏切り者め!」
カグヤから発せられたおぞましい力が迫るが、センリが体の前に手をかざすとそれが吸い込まれるようになくなった。
裏切り者。
その言葉がセンリの心の奥に、深く深く突き刺さる。心臓がぢくぢくと痛み、言葉にならない程に辛かった。センリがこれまでに感じたどの痛みより強く、そして哀しいものだった。
だが、顔を背ける訳にはいかなかった。
受け止めなければならない、自分の罪だ。
『許さなくたっていい。裏切り者って思うなら、それは仕方ない。私は、カグヤのことを友だちだと思ってる。きっとずっと、友だちだと思ってるよ』
センリはもう、迷わなかった。
『だからここで、あなたを止める。この世界の…――未来を守る!』
それからは、光のように時が過ぎた。
カグヤとの戦いは数ヶ月に渡って続いた。
カグヤもハゴロモもハムラも、もちろんセンリも眠ること無く休む事なく戦った。四人の力はもうほかのだれも手がつけられないくらい恐ろしいく、強大だった。
それでもやはりハゴロモとハムラは人間だ。体力が無くなるとセンリが二人に自分の力を流し込んだ。そのお陰で二人は飲まず食わず寝ずで戦うことが出来た。
三人はかなり力を消耗した。だがそれはカグヤも同じだった。神樹の力を得たとはいえ、ハゴロモは仙力を、センリはカルマの力を、ハムラも白眼の力を駆使する。さすがに体が追いつかないようだった。
三人の息は、初めて戦いの場に出たとは思わないくらいに合っていた。それはハゴロモとハムラを育てたセンリだからこそだったかもしれないし、または逆だからかもしれない。三人がお互いに傍にいたからこそ、出来た戦い方だった。
神樹の化物が結界を破り攻撃をすれば、センリとカルマが何度もそれを止めて、そしてまた結界に封じ込めるという事を繰り返した。
何度も。
何度も。
幾日も。
四人は戦い続けた。
戦いは過酷だった。だがセンリもハゴロモも、ハムラも諦めなかった。自分たちがカグヤに勝たなければ、カグヤを倒さなければ、この世界は終わると分かっていた。
永遠に続くかとも思った。
―――しかし終わりというものは突然、そして呆気なく訪れるものだった。
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