- ナノ -


大筒木編

-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-



「なにか攻撃する気だ」


そして何か黒い暗い、恐ろしい力が詰まった丸い大きな玉がこちらに飛ばされた。カルマはセンリを乗せて咄嗟に避ける。一瞬で違う場所に現れたように見えるが、二人は空間を光の速さで移動しているのだ。

十尾の攻撃は二人を外れ、肉眼では見えないくらい遠くまで飛んでいき、とんでもない範囲で爆発を起こした。雲の上まで爆発の煙が届く。暫くして時間差で爆音も聞こえた。


「異常なエネルギーだ」


『なるべく早くどうにかしないと!あんなの出し続けたら地球がめちゃくちゃになるよ』


そう言っている間にも十尾は次々と攻撃をしてくる。考える暇もない。


「凄まじい力の凝縮体だな。“尾獣玉”ってところか」


強烈なエネルギーを放つというのにインターバルも全く無い。キィィィンという不快な音が僅かに聞こえたかと思うと、また十尾が力の塊を放とうとしていた。


『カルマ!』

「分かっている」


センリは、十尾が放った尾獣玉に向けて手の平をかざした。ユラユラと白く光る盾のようなものが現れたかと思うと、スローモーションのように尾獣玉が消えていった。まるで吸い込まれてしまったようだ。


『っ……光の盾でも消すのが難しい…!』


カルマの力である光と時間。周辺の光を集めた盾の前では急激に物質を成長させたり退化させられる為に一見消えているようにも見える。

だが十尾が放つ力は強大すぎてそれがかなり難しい状態だ。


『ここからだと…避難させた人たちの多くは向こうの方向に行ったはず。そこに向けて打ったものだけ防ごう。他は避けていた方が――――』


おぞましい力がセンリのすぐ横を飛び去って行った。


「そうするべきだ。我らの力だけでは全ては防げぬ」

攻撃を避けたと思えば四方八方から十尾の尾が降ってくる。闇雲に攻撃しているようで、的確に二人を狙っているようだ。速さと瞬発力が無ければ速攻でやられてしまう。

十尾はカグヤの事がわかるのか、そこだけには攻撃は当らないようにしているようだった。


「しかし…ただの自然の一部だった神樹の中にそうとうカグヤの意思が入っておるな」


センリは弓を構え、揺れるカルマの背中から十尾の目を狙った。


『そうだね……それに、あの目はなんかいやな感じがする。あれは無限月読したときの目だから』


カルマもセンリの意図に気付き、出来るだけ近づく。瞳を目がけて矢を放つ。不安定な状態でもセンリの狙いは百発百中だった。確実に大きな瞳を狙って矢は飛んだがそれは十尾の尾に弾かれる。


「簡単にはいかないようだな………おっと」


十尾は怒り狂って尾を伸ばしてきた。カルマはそれを避ける。普通の攻撃は無意味なようだ。

十尾は人間の姿だが、獣のように四肢を付き、吼えている。


「センリ、この獣には攻撃するよりとりあえず押さえ込んだほうがいい。結界を張る。しかし結界をはるにももう少しじっとしていてもらいたいものだな…」


十尾の尾はかなり長く、四方八方に蠢いている。動きを止めなければ結界が張りにくい。

すると十尾の姿を見てセンリはハッとした。なにか考えついたようだ。そしてカルマの背に仁王立ちした。


『……お座りぃ!!』

ビシィッと十尾を指差し、大声で叫んだ。カルマはまるで目が点になった。


「なんということだ」


十尾は驚いたようにセンリを見つめ、そしてなんと腰を下ろし、どう見ても“お座り”だと思える格好をしたのだ。ただ姿が姿なだけに逆に気味が悪い。


『待てぇ!!』


するとどうだろう。十尾は完全に動きを止めたではないか。カルマは何が何だか、びっくり仰天だ。


『よし、カルマ今のうちに!』


カルマはハッとして頭をブルブル振るった。
十尾はもはや神樹というより、獣に近いということが分かった。

センリは今度は十尾を囲うように四本の矢を地面に放つ。センリはカルマから素早く飛び降り、地面に手をつく。カルマは再びセンリの中に潜り込む。センリの背からカルマの白く半透明の翼が現れ、二人が融合する。


『「四神封陣!」』

白い結界が十尾の四方を取り囲むように天に伸びていく。それは大きな立方体になり結界が出来る。
四つの矢から朱雀、玄武、白虎、青龍の形をした白い影が飛び出し、十尾を捉える。十尾は動き出し、もがくが、この結界の力はかなり強い。


『一応動きも封じておこう』


センリが弓を放つと結界をすり抜け十尾の足元に突き刺さり、氷柱となりその躯を氷漬けにした。

十尾は怒り狂って口を開け、攻撃の玉を繰り出すがそれは結界に吸収されるように消えた。それにセンリの作りだす氷の強度はずば抜けている。十尾はギャアアアアと狂ったように叫び声を上げてもがいている。


『ハゴロモたちのところに行こう』


当分結界が破られることは無い。センリは空を飛び、二人のところに戻った。

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