大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
ガマ丸とハゴロモが仙力を習得しているのを遠目に見ながら、少し開けた場所でセンリはカルマと向き合った。
「人間の世界ではなかなか実体化して教えることは出来ないから良い機会だ。カグヤと戦うことになるかもしれぬという覚悟はできたか?」
センリはカルマから視線を逸らし、地面を見た。
『正直戦いたくない。ずっと一緒にいた友だちだから…』
そして再びカルマを射抜くその瞳はやはり強かった。
『人は誰だって間違うと思う。私だって本当は何が正しいかなんて分かんない……でも、もしもカグヤが平和のため、みんなの為じゃなくて自分の事しか考えずにそうしてるなら…本当に力だけが人を、国を、平和にすると思ってるなら、私はそれは違うって教える。友だちだからこそ』
カルマは満足そうな表情でセンリを見下ろす。それでこそ自分が選んだ娘だと。
『それに…気付けなかったのは私だし…。カグヤが本当は何を思って、何をどうしたいのかちゃんと聞かなきゃ』
センリはまだ友を信じていた。話せば分かり合えるはずだと。カグヤに信用されるくらいに強くなり、そして友である自分が暗闇から引きずり出す。確固たる決意がセンリの胸にはあった。
「我はその言葉を信じる」
それを分かっているカルマは大きく頷き、それにセンリはニッコリして親指をぐっと立てた。
「では我達も始めるとしよう。センリ、まずは力についてだが、御主の体の中にある力には種類がある。大きなものは、二つで“陰の力、陽の力”と呼んでいる」
『?』
センリはよく分からずに首を傾げる。
「御主が元々いた世界にも陰と陽の考えはあった。森羅万象、宇宙のありとあらゆる物事をさまざまな観点から二つに分類する思想だ。たとえば陰が、闇、柔、水、冬、夜、植物、女だとすれば、陽は光、剛、火、夏、昼、動物、男といった風に。
力に置いても同じような感じで考える。陰は、想像を司る精神エネルギーをもとにする力。陽は、生命を司る身体エネルギーをもとにする力だ。
……まだ難しいか。
つまり簡単に言うと形なきものに形を与えるのが陰、形あるものに命を吹き込むのが陽だ。
センリで言うと、火や水を操るのが陰だ。そして御主が自分に負った傷は次の日にはもう大体消えておるだろう?それは陽の力だ。
先ほど御主が行った術は、形のないものにセンリの頭の中にある実物の形を当てはめ、そしてそこに新しく生命を与える。陰と陽ふたつの力を使ったものという事だ」
センリは難しい顔をしながらカルマの話を聞いていた。
『ぅんん……つまりどういうこと?』
センリはあまり頭が良くはなかった。
「つまり……御主の中には陰と陽二つの力があるという事だ。センリは元々、この二つの膨大な力があった。特に陽の力は我の想像を超える程だ。まあそれはカグヤも同じだが…。御主にはそこに更に我の力も上乗せされておる。これを生かさない手はない」
そう言うとカルマはポンッと音を上げて消えた。と思うとカルマがいた場所には白銀の髪をしたセンリよりも小さい少年がいた。
『あっ、すごい!カルマちゃんと人間になってるよ!』
今まで人間に化けた姿で一番完成度が高い。化ける時はいつも髪の毛が無かったり、のっぺらぼうだったりしていたので少し怖かったのだ。
「人間になるのはかなり難しいのだ。我は何千年もあの姿でいたのだから」
でも声は普段のカルマの低い声なので何か変だ。
しかしこれなら修業はしやすい。
「よし。それでは始めるか」
それからハゴロモとセンリは数ヶ月の間、毎日毎日修業をした。一日一日がとても短く感じた。
時々ハムラが差し入れを持って来てくれて村の様子を話してくれた。カグヤはずっと留守にしているようだ。
センリは、得意な剣術や弓術にカルマの力を纏わせるという修行に成功したし、新たな力も完成した。
ハゴロモも仙力を上手く使えるようになったようで、センリが見てもわかるくらい強くなった。ガマ丸との絆も深めたようだった。
センリは修業に疲れて地面の上で寝てしまうこともあったが、カルマやハゴロモが面倒を見てくれたし、ガマ丸の仲間達と過ごすのは楽しくもあった。
その間ハゴロモは髭が伸びたし、ハムラは髪の毛が更に伸びた。その辺に関しては大筒木兄弟は成長がはやい。ハゴロモの成長ぶりは、もしかすると仙力を習得している事も関係しているのかもしれない。
そして二人の力の使い方が充分だと判断したカルマとガマ丸は遂にカグヤの元に戻す事にした。
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