大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
「出てこい、ガマ丸」
三人が向かったのはガマ丸と出会った森の大きな水たまりの前だ。
ハゴロモが水に向かって呼びかけると答えるようにガマ丸が水から出てきた。
「…行ったのじゃな、あの峠の向こうに」
ハゴロモの目を見てガマ丸は悟ったようだ。
「ついてこい」
そう言ってガマ丸は再び水の中に消えていった。三人も顔を見合せた後、ガマ丸を追って水の中に飛び込む。
『ここは…』
次に三人が水から顔を出すと、そこはなんとも不思議な空間だった。
空は緑とも黄色とも青くも見える不思議な色で、雲には桃色の影が見える。夕方のようにも朝方のようにも、真昼間のようにも感じる。辺りには見たこともない大きな葉が生えていて、身の丈五メートルはあろうかというカエルの石像が並んでいた。
「ここはガマの国じゃ」
三人は水から這い上がり、地に足をつける。これもまた不思議なことに、三人の洋服は濡れていなかった。こんな空間がある事をセンリも知らなかったが、カルマの作り出す白い空間の雰囲気と似ていた。
「不思議な力を感じる…」
その気配を感じ取ったハゴロモが、辺りを見渡しながら呟く。
「さすがじゃな。人間でここの力を感じ取るとは。ここには仙力といわれる自然パワーが満ちている。それを使えば…」
ガマ丸が近くにある三メートル弱はある石像をいとも簡単に片手で持ち上げた。
「ワシにもこんなことが出来るのじゃ」
ハゴロモが「すげえ」と呟く。
ガマ丸が次に連れてきたのは、なにやら大きなガラス玉が飾ってある場所だった。“仙”と書いてある大きな台座の前にガマ丸が飛び乗った。
「これは記憶石と呼ばれるものじゃ。地上で起きたあらゆることを記憶している」
ガマ丸が台座の上に乗っている巨大なガラス玉を指差す。
「見るがいい。かつて何が起きたのかを」
ガラス玉に記憶が映し出され、ガマ丸が話始めようとした。
『待って。少し…私にも話させてくれるかな?』
センリが一歩前に出る。ガマ丸はその様子を見て少し横に飛んだ。
「そうじゃな。カグヤの一番側におったのはお主じゃからな。二人にカグヤの事を教えるいい機会じゃ。それ、記憶石と共に…――」
センリはハゴロモとハムラが産まれる前のことを詳しく二人に話したことは無い。頷いて二人を振り返り、ゆっくりと話し出す。
『あの神樹はね…数千年前に突然空から降ってきたらしいんだ。その後、カグヤも空からやって来たの。私はカグヤと友だちになって…そしてカグヤはこの地の一つの国の皇だった人と結婚した。それが二人のお父さんだよ。
カグヤは口数は少なかったけどとても幸せそうだった。カグヤは、あなた達のお父さんの事をとっても愛してたと思う。
でも……。二人を身篭ってからすぐ、他の国が攻めてきて、追い詰められて、カグヤはその人達を殺してしまった。二人を守るのに必死だったんだと思う――。そしてカグヤは自分の国にも、敵国にも、命を狙われることになってしまった。
カグヤは神樹の力を手に入れて、そのふたつの国の人達を幻術にかけたの。それがカグヤにとって、争いを止める術だったんだと思う…。
だけどカグヤはこの地の人間を絶やさないようにと、他の人間は残した。そうしてカグヤは、自分でこの地を治めることにしたの』
初めて知る母親の過去に、ハゴロモとハムラは黙って耳を傾けていた。
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