大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
『ハゴロモ、ハムラ』
カグヤが屋敷を去り、センリは二人の顔を見上げる。
「センリ、わたしも同じ考えだ」
ハゴロモが遠くの神樹を睨みつけた。
「まさか」
ハムラが少し動揺したようにハゴロモとセンリを交互に見た。
「あの峠に登る」
ハゴロモとセンリの目は真剣だった。
「母上に知れればタダでは済まないぞ」
ハムラは心配そうだった。だが何を言ってももう二人の決意は変わらない事はハムラには分かっていた。
『カグヤが話してくれないなら見て確かめるしかないよ』
センリには嫌な予感がしていた。まさかまたあの時のようになってしまっていたら…。手遅れになってしまったかもしれない。
「分かった、センリ、兄者。オレも行こう」
三人は神樹へと向かう。
まるで神樹を守るように囲んでいる峠を越えるとそこには恐ろしいほど大きな神樹が生えている。
『(これはまさか……)』
「なんだこれは…」
ハムラが絶句した。枝々も立派なことながらそれよりも三人の目を引いたのは大きく広く地面を覆うように伸びた根だった。
『あっ、ハムラ!』
すると突然ハムラが峠を駆け下り、神樹の元へと急いだ。二人は後から追いかける。
近くで見るとそれは恐れを感じるくらい大きく、地面と根との間には巨大な隙間が洞窟のように広がっている。ハムラはそこを滑り中に入っていく。
「これは…!」
そしてその中には根に繋がれた人のような形をした繭のような何か。それが数え切れないくらいあって、センリは全てを理解した。
『(これ…無限月読をした時の…!こんなにたくさんの人が…てことはあのしきたりで神樹に向かった人全員…)』
「兄者!この繭を」
ハムラが一つの繭を指差し、ハゴロモがそれを切り裂く。すると中から出てきたのは……。
「『ハオリ!!』」
ハゴロモとセンリの声が重なり、地下に木霊した。繭の中にはハオリの姿があった。目は固く閉じられ、生気がまるで無い。
「ハオリ、しっかりしろ!」
ハゴロモがハオリの肩をつかみ揺さぶる。だが、その体の冷たさにもう命が無いことをハゴロモは瞬時に理解した。
「ダメだ……。もう死んでる」
ハムラが目を逸らし、唇を噛み締める。センリはハオリの傍らに座り込み、手を固く握りしめた。だがその手が握り返されることは無い。
「ウォォォオオ」
ハゴロモはハオリを慕っていた。その突然の死を目のあたりにしてハゴロモの悲しみの叫びが響いた。
「兄者、その目…!」
驚いたようなハムラの声を聞き、センリはハゴロモを見上げる。
『(これは……!写輪眼…)』
その目は紅く、血のように染まっていた。ハゴロモの心から溢れた、深い悲しみの血だった。
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