大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
先日の件から一週間経ったがカグヤは帰ってこなかった。カグヤが留守の時はハゴロモ、ハムラ、センリが村の見回りをしたり村人の相談を聞いたり怪我をした者達を治したりと行っている。
だがあの日カエルと出会い神樹の事を言われてからハゴロモの様子はあきらかに違っていた。
皆が農作業をするのをじっと見ているハゴロモに、ハムラとセンリが後ろから近づく。
「兄者…あのカエルが言ったことが気になるのかい?」
ぼーっとしているハゴロモにハムラが問いかける。
「いや、そういう訳では無いが…」
ハゴロモが首を降った。
ふと下を見ると神樹に向かって歩く村人の列が。
「あれは神樹のしきたりの…」
『ハゴロモ、あれ……』
センリが何かを発見したように列の最後尾を指指した。
「…そんな」
ハゴロモはそれを見て、駆け出していった。
村人たちの中によく知った後ろ姿、ハオリを発見したのだ。
「ハオリ!」
ハムラとセンリもハゴロモの後を追ってハオリに近づいた。
「ハゴロモ、ハムラ…センリさんも」
『知らせが?』
センリが聞くとハオリは困ったように笑った。
「来たの。神樹様へのお使いの知らせが」
「だが…」
ハゴロモは納得いかないようだった。
「仕方の無いことよ。ずっと前からカグヤ様が決めたことなんだから」
ハオリは三人に近付く。
「短い間だったけど楽しかったわ。私のこと、忘れないでね」
そう言って自分の首飾りをハゴロモに付け渡す。
「センリさん、二人のことどうか宜しくお願いします」
ハオリは少し微笑んで列に戻っていった。
『ハゴロモ、ハムラ。今日みんなが神樹に向かってるって事はもうカグヤは帰ってきてるはず』
神樹への使いがある日には必ずカグヤは帰ってくる。三人は屋敷にカグヤに会いに戻った。
――――――――――――――――――
「母上、神樹のしきたりを中止してください」
いつもの場所、屋敷の端の廊下で空を見ているカグヤを見つけて三人は近寄り、下から話しかけた。ハゴロモとハムラはカグヤに頭を下げている。
「それはならぬ。お前達とてワラワに逆らう事は許しません」
カグヤはこちらを見ようともしない。
「では教えてください。あの神樹のしきたりに向かったものはどうなるんです?なぜ帰ってこないのですか?」
ハゴロモの言葉にセンリが反応した。
『帰ってこないって…どういうこと?カグヤ、あなた私に、あのしきたりは神樹に祈りを捧げその後祈り終った人たちは他の国に移動しているだけ。そう言ったよね?帰ってこないってどういう事?』
ハゴロモもハムラもしきたりについてセンリが把握していなかったとは驚きだった。カグヤはセンリに嘘をついていたことになる。
「あのしきたりは必要なのだ。あの者達が来るまでは…」
カグヤはそんな事何とでもないという感じでセンリの言葉には反応しなかった。
『あの者達って誰なの?』
センリが静かに問いかける。カグヤは三人を見下ろす。
「それはまだお前達が知る必要はない。そしてセンリ…そなたもな」
ハゴロモとハムラはカグヤの言いしれぬ威圧感に何も言えなくなってしまった。
そしてまた留守にすると言い残し、振り返らず去って行った。
『カグヤ……』
ハゴロモはセンリの悲しげな横顔を見て全てを決断した。
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