大筒木編
-本当の姿-
屋敷につくとなにやら入り口に人影が見えた。
「センリ様、どこへ行ったのかと……ああ、ハゴロモ様もハムラ様も、ちょうど良いところに」
迎えたのはカグヤの世話人の婆やだった。三人を探していたようだ。
『んん?この方は?』
婆やの隣には背に荷物を背負った男がいた。
「このお方がどうにもしつこくて」
婆やはいかにも迷惑といった表情だ。
「オイラは旅の薬売りだ。この辺で商売しようと思って許可を貰いに来たのよ」
なんだか胡散臭い男にハゴロモとハムラは警戒していた。
『カグヤは?』
センリが尋ねると婆やは首を振った。
「今晩はお出かけになると」
「また出かけたのか…最近は多いな」
確かに最近カグヤはセンリにも何も知らせずにいつの間にかいなくなることが多かった。ハゴロモが呟くように言うとハムラが男の荷物に目を向ける。
「どれどれ?オレがお前の薬を見てやる」
何を思ったのかハムラは男の籠に手をかけ中身を取り出し放り投げ始めた。
「あーっ!人の商売道具になにしやがる!」
男が叫ぶ。
「ただの雑草にカビの生えた木の実。こりゃ毒キノコだ。こんなの飲まされたら余計具合が悪くなる」
どうやら男はインチキだったようだ。さらにペテン師だと迫られると男はギクッとして冷や汗を流し始めた。
「この村には母上とセンリ、それから兄者の三人の力がある。それがあればどんな病気だって怪我だってたちどころに治る」
ハムラが反抗するように言った。
「それって、あの神樹様の力なのか?」
「いいからとっとと出て行け。痛い目に遭いたくなきゃな」
そうしてハムラは男を追い出して屋敷に入っていった。
『(あの人…旅してるって言ってたよね)』
センリは少し考えがあって、ハゴロモの耳元でなにやら囁いた。
「なるほど……わかった。わたしが行ってこよう」
センリは頷き、ハゴロモは屋敷を出て先程の男の後を追いかけて行った。
その後すぐハムラは村の見回りに行き、しばらくするとハゴロモが帰ってきた。
『どうだった?』
戻ってきたハゴロモの顔は芳しくなかった。
「あの男に他の村での母上の様子を聞いてみたんだが…」
ハゴロモの歯切れは悪くいい事は聞かなかったのだなということが見て取れる。
「母上は自分に歯向かった国の者達を全滅させたらしい。民の中では母上の暴君ぶりに反対し始める者達が多くて、センリを長にしたいという動きもあるそうだ」
センリは眉をひそめる。
『まさか。カグヤは平和な国を作りたいんだよ?最近留守にするのは戦いに行っているだなんて…』
にわかには信じられない。センリもハゴロモも押し黙った。
最近話さなくなった母、突然いなくなるようになったカグヤ、さらには目つきも鋭くなり、冷徹さも増した。思い当たる節はいくつかあった。ただ二人はまだ決定づけることはできなかった。
『神樹のことだけど……やっぱり、次にカグヤが帰ってきた時に聞いてみることにする』
ハゴロモもしばらく考えていたが頷く。
センリはやはりカグヤを、友を信じたかった。あんなに平和を願うカグヤが人の命をいくつも奪っているなどとは、信じたくはなかった。
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