大筒木編
-本当の姿-
『んん?今話したのはあなた?』
センリが膝に手をつきカエルを見下ろす。
「だからそうだと言っているじゃろ」
やはり先程の声はこのカエルで間違いないようだった。
「ハムラ…わたしは頭がおかしくなったのか?本当にセンリがカエルと話しているように聞こえる」
ハゴロモが信じられないという目でセンリとカエルを見る。だがそれはハムラも同じようだった。センリはたまに動物達と話している時があったが、今回は訳が違う。カエルの方も人の言葉を話しているのだ。
「それならオレの頭もおかしくなったってことか?」
少々失礼なこと言う二人にカエルは呆れたようだった。
『本当にこの子だと思うよ』
センリがカエルを指さす。
「その通り。別にお前らの頭はどーにもなっとらん。ちゃあんとワシとこの娘は会話をしておる。“子”という点ではたしかに少しおかしい感じもするが…」
ハゴロモとハムラはビクッと体を震わせた。
「周りに誰もいない…腹話術でもなさそうだ」
ハムラが周囲を見渡し確認する。
「用心深い奴じゃのう!人間の分際で」
「ずいぶん威張ったカエルだな」
いやに上から目線のカエルの言葉にハゴロモはニヤッとした。
「お前は人間が知らないだけでワシらカエルの方がずーっと昔からこの地に住んどるんじゃ!」
カエルがビシィッとハゴロモを指さす。
「喋るカエルって…捕まえて帰ったらみんな喜ぶかな」
そんなカエルの言葉を聞いてもいないハゴロモとハムラは面白い事を思いついたというふうに顔を見合わせた。
『なかなか捕まらなさそうだよ』
センリが笑みを浮かべてカエルを見る。
「そうじゃそうじゃ!貴様ら程度に捕まるワシではない!」
カエルが慌てて言う。
「ハッ、言うじゃないか」
その時三人の背後から草むらがうごめく音がして、人間の声に気づいたのか、熊が巨体を揺らしながら現れた。
「ずいぶんデカイ熊だな」
熊の身の丈はハゴロモの倍以上はあるが、ハゴロモもハムラも動じない。
「丁度いい、ワシの強さを自慢してやる」
センリが前に出て熊を止めようとした時、カエルがそう言って制した。
カエルは口を膨らませたかと思うと、口から水を噴き出した。それがかなりの威力で、熊に命中すると吹き飛ばされ岩に直撃し、そそくさと立ち去るほどだった。
三人はびっくりしてカエルを見た。
「この岩はワシが置いたのじゃ。お前らに会うためにな。ワシの名前はガマ丸。お前らの名はハゴロモとハムラ、そしてそこの娘はセンリじゃな」
まだ名乗ってはいないのにカエルが名前を当てたことに更に三人は驚いた。
「カエルに呼び捨てにされた…」
ハムラが呟く。
するとカエルが突然石の上からピョーンと飛び降りた。
「ちょっとついて来い」
カエルは森の中へと飛び跳ねて入っていく。
『あっ、これどかさなきゃ』
ふと思い出したようにセンリが岩を指す。
「わたしがやろう」
そう言ってハゴロモが岩に手をかざす。すると大きな音を立て、まるで雷にでも打たれたかのように大岩が砕け散った。
『あのカエルさんについて行ってみよう』
ハゴロモとハムラは頷き、三人はカエルの後をおった。
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