大筒木編
-大筒木カグヤと神樹の力-
朝早く、カの国ではテンジたちが和平交渉を求めていた。
「我が国にも戦の腹積もりはない。その証拠に我が国では、カの国の者に手を出したら即刻死罪という命を出している」
テンジが力強く言い放つ。
「ほう。なるほど」
突然カの国の男が後ろから歩いてきた。女中の一人がうなだれて捕らえられている。
「ではカグヤを即刻死罪にしてもらいたい!」
その場にいた者たちが訳が分からないという風に男を見る。
「カグヤという者は…我が部下を殺し、わたしも殺そうとしたのだ!」
テンジが信じられないと目を見開く。
「そんな!!カグヤが…」
「嘘だと思うならこの女に聞いてみろ!」
男は女中をテンジの前に突き出した。女中は抵抗する気力もないようだった。
「本当、なのか?」
「はい……カグヤ様は恐ろしい力でカの国の者達を…」
女中は言ったあと目を伏せてしまった。思い出したくないようだった。
「テンジ殿、カグヤの首なくしては戦は止められんぞ」
男が勝ち誇ったようにテンジに言い放つ。
「…戻るぞ」
テンジと側近はその場を後にし、森の奥のカグヤ達が居るべき場所に向かった。
だがそこにはカの国の者たちの無惨な死体があるだけで誰も居なかった。
「これを…カグヤが……」
テンジは絶望した。
まるでそれは人間の仕業とはいえないほど悲惨な状態だった。
「子細はどうあれ…カの国の者達を殺したのは間違いないようですな」
テンジは信じたくなかった。愛した人がこんな事をするとは。
「テンジ様、どうなさるのですか。本当にカグヤ様を……」
テンジはやっとの事で声を振り絞り発した。
「差し出さなければ……戦は…回避できない…」
「ほんとうに、それで良いのですな…?」
テンジにはもう迷う事はできなかった。国の平穏のため……。
「全軍、カグヤを何としてでも探し出すのだ!草の根を分けてでも探し出せ!…致し方あるまい……」
国の為に、愛する人を殺めることを決めた。
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