大筒木編
-大筒木カグヤと神樹の力-
それから夜、カグヤが空を眺めるときには隣にはテンジが佇むようになった。
喜怒哀楽の表現が乏しいカグヤだったが、センリと話すとほんのかすかに笑みを浮かべるようになったし、テンジとの仲も深めているようだった。
センリとカグヤがソの国にとどまってから四月くらいが経ち、季節はいつの間にか夏になっていた。
ただ何もなしに時は流れているだけではなく、カの国とソの国の国境では時々小さな争いが見られるようで、カの国の者たちの悪さは日に日に度合いを増していた。
センリは昼間遊びにも気を抜かないが、修行も欠かさなかった。お陰で森の動物の深い傷も治せるようになったし、弓術にもさらに磨きがかかった。弓に自分の力を込めて威力を上げることにも成功した。
テンジはあらそいをさけるべくカの国に和平交渉を迫っていた。カの国の者に手を出したら死罪にするとも宣言した。
「(センリ……なにか嫌な予感がする)」
神鳥がセンリの頭の中に警告を出す。
『やだなあ…あなたの勘ってよく当たるんだよね』
森の中からカラスたちがバサバサと飛び交う。太陽が燦々と輝き、田んぼではソの国の民が稲の手入れをしている。いつもの風景だった。
しかしその悪い予感はその日の夜、的中することになる。
「テンジ様はおるか!!」
真夜中になろうかというとき屋敷に声が響き渡った。すぐさまアイノが出て行く。
「はい。毎日のように来られます。最近はカグヤ様も心をお許しになったのか二人で……」
「そんな事は聞いとらん!」
テンジの家来がそれを遮り再び大声を上げた。かなり急ぎのようだ。
『どうしたの?』
騒ぎを聞きつけてセンリも起きてきた。
「テンジ様!テンジ様!!」
するとこちらも騒ぎに気づいたのかテンジとカグヤが寝間着のままやって来た。
「何事だ、こんな夜中に」
「国境にカの国の大軍勢が!」
家来が息せき切って言う。
「なに!?」
和平交渉の返事もまだもらっていない状態だった。アイノも目を見開く。
『(まさか…戦……)』
「カグヤ、私はすぐに出陣しなければならない」
テンジが急いで言うとカグヤが心配そうにテンジの肩に手をやる。
「戦が…」
平和を望むカグヤは悲しい声を出す。
「いや、あくまで和平のためだ。しかし悪くすると……アイノ、急いで身を隠す準備を」
アイノがすぐさま準備にとりかかる。テンジがセンリを見やる。
「センリ殿……カグヤをどうか頼む」
センリはその言葉に力強く頷いた。
テンジたちは国境に向かい、カグヤを籠に乗せ何人かの家来とセンリは場所を移動する。
万が一に備えてセンリは弓矢を背負い一行の後を歩く。
「(センリ、正直ここから先の未来、我にはどうなるかは分からぬ。御主の好きにやれ)」
『(分かった……どうなるか分からないけど頑張る)』
しかしその時ソの国にスパイがいようとは誰も気づかずにいた。
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