大筒木編
-解り合えなかった親子、解り合いたかった友-
『カグヤが神樹の力を手に入れてから私は気絶しちゃってたみたいで…神樹の生贄になった人たちを助け出す事が出来なかった…。でもそのあと、カグヤは神樹の幻は使わないって約束してくれた。その時に教えてくれた“世界を平和にしたい”っていう言葉も、カグヤの心からのものだったと思う。テンジさんを愛したことも。でも……――』
センリは言葉に詰まる。
ガマ丸は目線を下げ、センリを見つめた。カグヤの一番側にいたセンリは、カグヤを心から信用していた。カグヤは神樹へのしきたりを偽ってセンリに伝えていたが、センリはカグヤがかつて語った言葉を信じていた。カグヤが人類に神樹の影響は無いと言い張り、それをセンリは信じていたのだ。
しかし今、その言葉が偽りだと悟り始めている。自分が気付けなかったが為にまた人々が犠牲になっているかもしれないと、ほぼ確信してしまった。後悔の念が渦巻き、一瞬暗い表情をしたセンリをガマ丸は見逃さなかった。
「…センリは、母上がどこからやって来たか知っているのか?なぜ神樹を守ろうとするのか」
ハゴロモが静かに問いかけた。センリははっとして目をハゴロモに向け、そして首を横に振った。
『カグヤがどこから来たのかは私にもわからないんだ。カグヤはここに来てからずっと神樹を気にしてた。でもそれがカグヤの故郷が関係してるかはわからない。私はカグヤが平和の為に神樹が必要だと考えているんだと思ってたけど…違うのかもしれない』
「お前さんの考えは当たっている。カグヤがどんな説明をしたのかは知らんが、あれは平和の為にある訳では決してない。はっきりしていることは、あの神樹が生えてから明らかに大地の自然エネルギ−は減少しているということじゃ」
ガマ丸は三人の目の前に飛び降りる。ハゴロモとハムラは絶句していた。
「大地ばかりではない、人間からもじゃ。あの神樹がある限りやがて大地は枯れ果て我々も同じ運命をたどる」
センリは眉をひそめる。あの樹がそんなに恐ろしいものだと信じたくなかった。カグヤを疑いたくなかった。
『でもそれが分かったなら、またカグヤに会いに行って話をしないと』
ハゴロモも同じことを考えていた。
「だけど母上が話なんて…」
ハムラが諦めたような口調で言う。
ハゴロモはハオリから譲り受けた首飾りを見つめた。どんなに困難であろうと、あの神樹はどうにかしなければならない。センリとハゴロモの願いは同じだった。
「ガマ丸、わたしに仙力の使い方を教えてくれないか」
「兄者…まさか母上と戦うつもりで…」
ハゴロモは「万が一の為だ」とハムラに言う。
しかしガマ丸は、仙力を覚えてカグヤと同じようにならない保証はないとハゴロモに問う。
だがハゴロモは持ち前の頭の回転の良さで、話が矛盾していると突く。それだったら初めから自分たちに接触してくるはずはないと。
「うっ…お前、人間のくせに鋭いな。そういうお告げがあったのじゃ」
ガマ丸がギクッとして観念したように言った。
「夢じゃ。蝦蟇は滅多に夢を見ない。その夢はいわば予言に近い。わしはお前たちがカグヤと戦う夢を見た」
「その結果は?」
ハムラが尋ねるが答えたのはハゴロモだ。
「そこまでは見ていないはずだ。見ていたらびびりなどしない」
ハゴロモは冷静に言い放った。
「ゲコー!?何から何まで蛙の心を読むとはなんてやつじゃ…」
ガマ丸は本当にビックリしたようだった。
『私たちが、カグヤと……』
センリは俯き呟く。そんな日が来ようとは、思いもしなかった。
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