大筒木編
-大筒木カグヤと神樹の力-
センリはそれから遠方からきたテンジの側室の友人ということで一年間という間の契約で屋敷の一室に住まわせてもらっていた。
テンジはカグヤ同様センリにも世話人をつけようと提案したが断った。身の回りのことは自分でもできるし第一偉い立場でもないのにそんなことしてもらうのは申し訳なかったからだ。
センリはカグヤの部屋に自由に出入りすることができた。カグヤが拒まなかったからだ。
そしてカグヤの世話をするアイノという娘とも仲良くなった。
『神樹が気になるの?』
窓から遠くにある神樹を見つめるカグヤにセンリが話し掛ける。
「あの木は数千年前に忽然と生えて、見る間に大木になったとか。でも…恐ろしい噂も聞きます。あの木に近付くとたちまちの内に精根が尽き果て枯れ木のようになってしまうとか…」
その様子を見てアイノが説明した。
『(枯れ木…そうだったんだ)』
カグヤが振り返りアイノを見る。
「はっ…すみません、余計なことを言って」
アイノが慌てて頭を下げる。
「気にすることはない。本当のことです。でも、それもいつか…」
カグヤはそう言ったきりまた外を見て黙ってしまった。
『ねえねえカグヤ、一緒に魚釣りにいこうよ』
センリがいいことを思い付いたような表情で言い出した。
「センリ様、テンジ様のご側室とあろう方にそのような事は…」
アイノが慌てて、申し訳なさそうに言った。
『ええぇ……じゃあアイノ!一緒に行こう!』
アイノはびっくりしてカグヤをチラッと見た。カグヤは神樹からアイノとセンリに視線を移した。
「…今はもう世話をしてもらう用事もない。二人で行ってくると良い」
センリはカグヤにお礼を言ってアイノを連れて部屋を出た。
『一応テンジさんにも言ってからにしよう。あの人やさしいからきっと良いって言うよ』
センリはアイノに向かってニッコリした。
テンジのところに向かうと思った通りお許しが出たので二人で屋敷のそばの川に向かった。
アイノも遊びに行けるのが嬉しい様子だ。
「しかし本当にセンリ様はカグヤ様とは正反対のお方ですね。ご友人と聞いて驚きました」
釣り竿を作り、川に投げ入れて魚を待ちながらアイノが不思議そうに言った。
『いや、出会ったのは最近なんだけどね。なんか放っておけないというか…。それよりアイノ、私はそんな偉い人じゃないんだからそんなにかしこまらないでよ』
センリが満面の笑みを向けると同性のアイノでさえなにか照れるものがあった。
「そんな!カグヤ様のご友人ですし、センリ様は私よりも年上ですし…」
アイノは口ごもった。
『ん?アイノっていくつなの?』
センリがびっくりして聞く。
「私はもうすぐ十七になります」
『えええっ、十七歳?そうだったの?大人っぽく見えるね』
「そうですか?初めて言われました」
二人はしばらく楽しく会話しながら魚を釣り、その日は大漁で、二人の釣った魚で今日は豪華な夕食ができた。
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