精霊と人が共存し支え合う世界、リーゼ・マクシア。
その世界に存在する国の一つであるア・ジュール連合国の首都カン・バルクでは、今日も当たり前のように雪が降っていた。
霊勢の影響で首都付近はいつも厳しい寒さに包まれているが、上から見る景色はとても幻想的だ。
その景色を見るよう、首都付近にある小さな丘に彼は立っていた。
このア・ジュールのナンバー2の位置に立つだけでなく、ガイアス王直属の親衛隊『四象刃』に属し、ア・ジュールの黒き片翼と称されている彼……革命のウィンガルが。
そんな名高い彼は丘の上から道端で会話したり雪かきをしたりと、当たり前のように生活しているカン・バルクの街並みを無心で眺めていた。
大きな事件も起きず当たり前に包まれる日々……それはきっと、幸せなことなのだろう。
「ウィンガル」
ただ街を眺めていたそのとき、後ろから自分を呼ぶ声が聞こて来るがウィンガルは振り返ることはなかった。
何故なら、振り向かずとも誰が話し掛けて来たか分かるからだ。
ウィンガルに話し掛けたのは四象刃の一人でもある、露出の多いスーツを身にまとった女性――プレザ。
「……なにか用か」
「用がなければ話しかけちゃいけないのかしら?」
プレザはそう言って笑う。
しかしプレザの言葉を聞くもののウィンガルは何も言わず、やはり目線は街の方。
確かに彼女の言葉は嘘ではなかった。
特別な用などない。
……そう、見かけたから声を掛けただけだ。
何も返さない彼にプレザは小さくため息をつき、そのままウィンガルの傍に踏み寄ろうと足を一歩出した。
瞬間、
「! ウィンガル、上!」
プレザはウィンガルの頭上に不自然な白い光があることに気づいた。
今までの平穏な空気から一転。
プレザの叫び声にウィンガルは瞬時に反応し、自分のいる場所の真上を見て状況を確かめた。
その瞬間、彼の頭上にある光は爆発するように瞬き、何かをウィンガルのもとに降り落とす。
降って来る大きな影。
足元も雪で覚束無いだけでなく真上というとこもあり、ウィンガルは避ける体勢ではなく受け止める体勢を取った。
真っ直ぐ自分の元へ降って来る大きな影をウィンガルは両手で受け止めたが、どっしりとした感覚に少し眉間にしわを寄せる。
降って来るにしては重く、大きく、なにより温もりを感じた。
一体何が……と自分の手元を確かめる。
離れた場所にいたプレザは急いでウィンガルの元へかけ寄るが、その『何か』を見るや否や、目を見開く。
ウィンガルの腕の中には気を失ってる人間……少女がいたのだ。
なんの変哲もない、少女が。
ウィンガルとプレザは少女を見つめながら、黙り込むことしか出来なかった。
これが、彼女――輝羅との出会いだった。
120703