Prism Transparent

21.成り行きで世界は廻る

耳を済ませば波の音。鳥の鳴き声。隅にある市場の方では安いよー、と宣伝する店員の声。そして空は久しぶりに見る真っ青!雲一つない晴天!
そう。あたしはサマンガン海停にいるのです!初ラ・シュガルだよ!

「……てなわけでどうしよう」

あれから船に乗ってサマンガン海停に来たあたしは、一日だけ宿に泊まって海停の看板前に突っ立っていた。
ジュードくんたちは徒歩だから、イラート海停で降ろしてもらったあたしに比べると、時間がかかるだろうな〜と。

そんな甘い考えで宿に泊まったわけですが、それでももう少し時間がかかると思うわけです。
つまりその間に侵入の仕方を考えるのが適切……なのですが、良いのが思いつかないわけでして……。昨日も悩みに悩んだから快眠ではないよ。どうしてくれるんだ。

進歩といえばそう、前考えていた案の欠点を見つけたことでしょうか。案自体を見つけてはいないんかーい!とか言うのはなしね。
まずカラハ・シャールはどこですかって聞くとその街でお別れだなと。海停の入り口で倒れるのはあまりにも不自然だし……。ダメだこりゃ。

はぁ、と考えを振り払い、海停のど真ん中を陣取る看板に視線を向ける。
看板に貼り付けられてる指名手配書は、テイルズオブシリーズではお馴染みすぎる険悪感を漂わせていた。
これでジュードくんとミラだと、世界は分かるのでしょうか……。

「……っ」

と、思っていたとき。喉にあの感覚が走って、あたしは思わず口を押さえる。
今この瞬間に来るとは、思ってなかった……!

「げほ、げほ……」

まずは薬を取り出そうと、あたしは鞄を漁りながらしゃがみ込んだ。
今思えばこれからはジュードくんたちに迷惑をかけるんだなと、ぐらぐら歪む脳で考えるも、そう言っている場合ではない。何故ならそれは侵入できたらの話であり、薬を飲んでからの話だからだ。

「げほ、ぅぐ……あ」

と、その瞬間、大きな風が吹いて薬の入った袋が飛んで行く。誰も傍にいないときに限って風に攫われるなんてと思うも、重なる不運に嘆く暇もなく。
飛んだ薬に腕を伸ばしたときだろうか。

「大丈夫ですか!?」

聞き覚えのある声がして、あたしの思考は一瞬停止した。
幻聴かと思うも、声の持ち主はあたしの所に駆けつけ、地面にある薬を手に取る。
そっと差し出してくれる彼に当然覚えはあった。気になることも沢山あるけど、今は薬を飲もう。あたしは薬を受け取ると、すぐに胃に収めるのだった。

「ふぅ……」

差し出された薬を飲み込み、落ち着いたあたしは顔を上げる。姿形、雰囲気で判断していたが、そこにはあたしがよく知ったジュードくんがいて。
あたし的突然の再会に、口をあんぐりと開けてしまった。これは、喜ぶべきなの、かな?

「落ち着きましたか?」
「あ、はい。すみません……」

まぁ、あたしが出会いに驚いているなんてジュードくんは知るはずもなく、心配した様子で話しかけてくるわけですが。
そうしてる間に今度はミラとアルヴィンとエリーゼが、こちらに駆けて来た。

「ジュード!突然いなくなるから驚いただろう」
「ご、ごめん……。倒れてる人を見つけたから……」

さすがジュードくん。
安定のお人好しだね。

「そうなんだー。大丈夫ー?」

次にそう言ったのは、エリーゼの隣でふよふよも浮いているティポ。あたしは大丈夫だよと、発作からの精神的な疲労でへにゃりと笑みを返した。
まずティポが言うってことは、エリーゼ自身も心配してくれてるってことだよね?……の前に、ここはティポに驚くべきだったのだろうか。ナチュラルに返事をしてしまった。過ぎてしまった以上、仕方ないけど。

ティポに返事をしたあたしは、ゆっくりと立ち上がる。
ジュードくんはそんなあたしにゆっくりでいいよとか言ってくれるし、ほんとに優しい。

て考える前に、どうしよう……。
ジュードくんたちと顔見知り的なのにはなれたけど、ここからどう一緒に行く……?カラハ・シャールはどこですかしか使えるネタないぞおい。

こうなったら使うしかないか。上手くいくだろうかという緊張感から拳をぎゅっと握った。ときか、今まで黙っていたアルヴィンが閃いた様子で口を開いた。

「あぁ、なるほど。おたくのことか」
「は……?」

文脈のない話、展開。全てに対して意味が分からなくて、あたしは間抜けで低い声を出してしまった。
アルヴィン以外の三人も例外ではなく、視線は彼へと一斉に集まった。まあ、あたしの方が意味分かってない自信あるよ、うん。

「アルヴィン、彼女に何かあるのか?」
「いやぁ。ミラの社から俺、一人で帰っただろ?そのあとニ・アケリアで仕事を見つけてさ、人を人に届けて欲しいって依頼を受けたんだわ」

あ、これは嘘だ。
つらつらと理由を並べるアルヴィンを見て、あたしは思った。
あたしたちはニ・アケリアですでに一度会っているから、もしかしたらあたしの味方になろうとしてくれてるのかも……?

「で、その届けられる人である子の特徴が、ピンクの長いポンチョを着た女の子。たしか名前は……輝羅だったか?」
「あ。あたしの名前、輝羅です」
「ほう、そうなのか。では、彼女をとある人に届ける仕事を引き受けた……ということか」
「そーいうこと」

す、すごいなアルヴィン……。
さすが裏切り役代表なだけあって素敵な嘘だ……。プレイヤーとしてはとても見抜けそうだけど、他の三人が信じているのだから、素敵な嘘……。

「じゃあ、その届ける人の特徴は?」
「全身黒の服を着た男だ。名前は……なんだったっけな。野郎には興味ないから忘れた」

そんでもって?全身黒の服を着た男って?どう考えてもウィンガルだよね?
ウィンガルだったら会うのはまだまだ先の話だから、結構な間、みんなといれるんじゃ……!

「つなわけで、同行願いたいんだけど。どうかな、お嬢ちゃん」
「え、えと。仕事……なんですよね?じゃあ行きます」

もう少しで「うん!」って元気よく言いそうになったがなんとか抑え、あたしはそれっぽい返事をした。
かなり助けられたような気しかしないけど、まあ努力はしたし……したのかな……考えはしたか……ということで、終わり良ければなんとやらだ。

それからあたしはこれから一緒に行動する皆に自分からも名を明かし、すでに知っている皆の名前も聞いた。あとはさっきの発作の話とかをしたりと、情報交換。
で、お人好しなジュードくんに体のことを心配されたため、今日はまたまた宿に泊まることになりましたとさ。



サマンガン海停の宿。
晩ご飯を済ませ、そろそろ寝る時間だなーというとき、あたしはアルヴィンの部屋に訪れていた。
理由はまぁ、さっきのお礼を言おうかなって。

コンコンコンと扉を叩くとどうぞと返って来て、あたしは扉を開ける。
アルヴィンはコートとスカーフを取った身軽な格好で寛いでいた。そろそろ就寝する時間であるため、不思議に思うことはない。
逆に夜分遅くの訪問に、アルヴィンが不思議そうに首を傾げていた。

「輝羅か。どうした?」
「えと、さっきのことについてお礼を言おうかなって……」
「あぁ、あれか?あれ考えたの、おたくを届けられる人だぜ?」
「え?それって……」

もしかしなくてもウィンガル……だよね?でも、侵入の仕方は自分で考えろって……あれ?
辻褄が合わなくて眉を寄せて悩むも、実はきちんと手配してくれていた……というオチ以外ない。ツンデレ、いや、クーデレか?
悩むあたしの表情で『教えて貰っていない』という答えを察したらしいアルヴィンは、ふーんと納得を見せた。

「おたくには説明してなかったのか」
「うん……なんだかすごく意外……」
「そうか?ニ・アケリアのときの殺気、すごかったぞ」
「それはアルヴィンが得体の知れない傭兵だからでしょ?」
「あー……。分かんないんだったらいい」

あたしの言葉にアルヴィンは少しめんどくさそうに答えた。
なんか変なこと言ったかな……。話したくないオーラはとんでもなかったと思うんだけどな……。

「あ、それとこれ」

噛み合わない会話に考え込んでいると、次に何かが入った袋を差し出してきた。
一瞬なんだろうと考えたが、見たことのある袋だったためすぐに理解した。

「薬だね。ありがとう」
「いやいや。にしても、大変だな。発作」
「……まあね。悲しいことだけど、少し慣れたよ」

昔からずっと付き合ってきてる発作ちゃんだからね。
起こした瞬間はなぜ来るんだ、とかなるけど。でも来ちゃったなぁと諦めちゃうというか、仕方ないと思うしかない。
薬をじっと見つめたあと、あたしはもう一度アルヴィンを見上げた。

「とりあえず、今日はありがとね。あたしアルヴィンと違って嘘下手だから、これからも迷惑かけちゃうかもしれないけど……」
「こっちは仕事を受けた身だ。気にするなよ」
「うん。じゃあそろそろ戻るね。おやすみ」

アルヴィンに笑いかけると、あたしは薬を持ってその部屋を後にした。
あたしの背中を見送るアルヴィンの目が、疑いに満ちているとも知らずに。





成り行きで世界は廻る
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