ウィンガルに精霊じゃないかと言われた数日後、あたしはプレザとアグリアと一緒に訓練所に来ていた。
何故かは精霊術を習うためで、詠唱の仕方からコツやら色々聞いて精霊術を使おうとしているんだけど……。
「……ブルースフィア!」
………………。
何一つ起きないという。
これで何回目かなと一人悲しんでいると隣にいるアグリアは大笑いしていて、プレザは駄目だなと呆れていた。
あたしだって好きで間違ってるわけじゃないのに……。
なんていうかなぁ、詠唱まではそれなりに出来るんだけど、魔法陣が展開しないというかなんと言うか……。
とりあえず、何故か失敗する。
「……ねぇ、いつまでやるの?やっぱりあたし、精霊じゃないんだと……」
体力と頭と精神的に疲れた(てか傷ついた)ため言うが、プレザは首を振る。
「それはないわ。あのときたしかにあなたが魔物を倒したのよ。それにウィンガルが言うんだもの。あなたは精霊だわ」
「だってよ!ほら、もう一回やれよ!」
アグリアはそう言ってあたしを指差してまた笑う。
どう考えても楽しんでるなこの子……!
むむむ、と見返したい気持ちを胸に秘めながらあたしはアグリアを見つめる。
だからってもう一回やってみたとしても失敗するが落ちだと思う。
だって術が出るって感覚一つ感じないし。
はぁ、と虚しいあまりにため息をついていると靴音が聞こえてきて、あたしたち三人は後ろを振り向く。
「……調子の方はどうだ」
そこにはウィンガルがいて、様子を見に来たようだった。
……まぁ調子は最悪なわけだから、その意を込めて首を振るまでだけど。
「どんな状態だ?」
「詠唱の方は大丈夫なんだけど、重要な術自体の魔法陣が展開しない状態よ」
「つーか、輝羅の属性は光なんだろ?あたしとババアの専門外なのに、どう教えろってんだよ」
たしかに、アグリアの言う通りだな……。
プレザは水でアグリアは火だもんね。
「じゃあ、光属性の精霊術を使える人に教わればいいんじゃないの?」
「そうすると輝羅が精霊だと公にしなければならい。それだけは避けるべきだと陛下も仰せになっていた」
「あ、そうなんだ……」
バレたら実験とかされるかもしれないから、ってことかな?
あとはラ・シュガルに狙われるから……とか。
ううん、精霊は偉大だな。
あたしは偉大じゃないけど。
「とりあえず、光をイメージしてもう一度やってみろ」
「光……?光……」
ウィンガルに言われて、あたしは光を想像してみることに。
ただ単に光を想像するんじゃなくて、光の術を想像した方がいいよね?
テイルズで使われてる光の術……。
そう思いぱっと頭に浮かんだのは空から斜めに降ってくる光線で。
その術……皆がよく言っている斜めジャッジメント、正式名称ホーリーレインは上級すぎるかなと一人考える。
いや、でも精霊なんだからホーリーレインぐらいチョロいぜ甘いぜチョロ甘ですねな感じで使えるかもしれない。
うん、試す価値はあるかな。
あたしはそう思うともう一度意識を集中させ、詠唱に入る。
「───聖なる雫よ、断罪となりて降り注げ、ホーリーレイン!」
そう唱えて腕を天井に向けると、あたしの中で何かが弾けるような感覚がした。
弾けた感覚に間違いはなく、次の瞬間に魔法陣が天井近くに描かれ、刃と化した光線が魔法陣から出るように降ってきた。
しかもその光線は斜めに降っていて、まさしくあたしが知るホーリーレイン。
そして何より、精霊術が成功したことを示していた。
「ぎゃあああ!!!!」
あたしは自分が放った精霊術を見た瞬間に我ながら女子から出たとは思えない雄叫びを発し、傍にいたウィンガルの胸に飛び込んだ。
「ウィンガル!出来たよ!ねえ、見てた?見てたー!?」
「……見ていたが、何故抱きつく」
「へ……?」
そう言われ、初めてウィンガルに抱きついたことにあたしは気づいた。
そのことに気づくと顔に熱が集まり、あたしは慌ててウィンガルから離れた。
「ごごごごごめんなさい……。あ、あまりに……嬉しくてつい……」
ていうか、精霊って聞いて混乱していたのくせに精霊術使えて喜ぶって変な奴だよね。
まずプレザとアグリアもいるのに何やってるのあたし……。
穴があったら入りたい、そう思いながら顔を両手で覆い、指と指の隙間から二人の方を見てみる。
プレザはなぜかニヤニヤしていて、アグリアなんか今にも罵声が飛んできそうな勢いでこちらを睨みつけていた。
と思った瞬間、アグリアが口を開いた。
「イチャついてんじゃねーよクソが!輝羅が初めて発作起こしたときだってそうだ!あんたらデキてんのかよ!!」
「デキて……!?なんていう発想をするのアグリア!そんな、そんなこと噂にでもなったら……!」
あたし、生きていられない……!
ウィンガル親衛隊的なのに瞬殺されるよ……!足がガクガクブルブル……!果たしてこれは寒さからなのか恐怖からなのか……!
すると今度はニヤニヤしていたプレザが話し出す。
「でも、ウィンガルを気に入っているのは確かでしょう?今だって、私たちに教わったときは失敗ばかりだったのに、ウィンガルに教えて貰ったら一発で成功したんだし」
「いやぁ、それは多分、ウィンガルの説明がわかりやす……」
「つまりあたしとババアの説明は分かりにくかったと」
「え゛。いや、そんな……ねぇ?」
あはは……と苦笑いしながら武器である剣を構えるアグリアから離れようと後退する。
そんなつもりはなかったんだけど、怒らせたのは確かだよねー。
どうしようと思っていると、あたしとアグリアの間にウィンガルが入ってきた。
あたしが精霊術を使えると分かったためここへ来た理由を言う、とのこと。
……とはいえ、あたしはその言葉からウィンガルが次に何を放つか大方予想がついてしまっていた。
精霊術は誰に使うためにある?
……そう、他でもない魔物!
「魔物退治以外ないですよねぇええぇぇ!!!」
数日前の魔物退治の出来事が頭に過ぎり、あたしはまたもや叫ぶ。
「……あら。輝羅、あなた意外と勘が利くのね」
「見かけに寄らずな」
「誉めてるの?貶してるの?いや、貶してるに決まってるね、言わなくていいよ」
「一人でなに言ってんだよ……」
しくしくと泣き真似をすると呆れた様子のアグリアにツッコまれた。
別にいいよ。この気持ちが分かるのはあたしだけだ!別に!理解して欲しいなんて思ってないやい!多分!
「場所は前回と同じくモン高原。今度は我々と陛下のみだ」
「……場所とかより……また発作起こしたらどうするの……?」
かなりの頻度で起こる訳じゃない。
それでも前の魔物退治で起きてしまったため可能性はやっぱり捨てきれなくて、出来るだけ行きたくないのが本心だった。
「大丈夫よ。陛下がいるんだもの」
「ぅ……?そういう問題……?」
ガイアスがすごいことは良く知ってるけど、あたしの発作とは関係ないような……。
と思ったけど言葉には出さず、世話になっているのだから義理を通そうと、あたしはもう一度魔物退治に行くことになりましたとさ。
むすぅ、と頬を膨らまして行きたくない空気を体から漂わせていると、ウィンガルが口を開く。
「……安心しろ。俺たちは輝羅が発作を起こしたぐらいで死ぬほどヤワではない」
その言葉を聞いて、あたしは目を見開く。
もしかしなくても、励ましてくれてるんだろうな。
「……うん。そうだよね。ありがとう」
あたしはそのことが分かると、何故か胸いっぱいの安心を感じ、自然と頬が歪んだ。
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