Prism Transparent

10.基本的に馬鹿なふたり

リーゼ・マクシアに来て気づけば一週間が経っていた。
カン・バルクでの生活にもなんとなぁく慣れて来て、あたしはとくになんの変哲もない日々を送っている。
ただ地球と違ってゲームや携帯がないため、暇だなと思うときが多かったりなんなり。
こっちに来てその二つに依存してたんだなと改めて感じてたりもしていた。

とまああたしはそんな暇を潰そうとプレザの部屋へ行き、しかし不在で、その次にアグリアの部屋へ訪れる。が、

「二人ともいないんだ……」

どうやら二人とも不在らしい。
そうだと分かったあとよく考えてみるも、ここ数日、ウィンガルとジャオの姿も見ていないことにも気づいた。
二人が、というより四象刃が不在なのかもしれない。

四象刃全員がいないとなると結構重要なことでこの場を離れているってことになるのかなぁ……なんて思っていると、視野に廊下を歩くガイアスの姿が見えた。
四象刃に指示を出してるのはガイアスだし、ガイアスに聞くのが一番はやいなと、あたしは彼を見つけると飛びつくように近づいた。

「ガイアス!あのね、四象刃の皆はどこにいるの?」

アグリアもプレザも部屋にいなくて〜と続ければ、ガイアスは思い出したかのように、そういえば伝えていなかったなと「あぁ」と零した。

「四象刃には魔物退治を任せている」
「あ、そうなんだ……。大変だなぁ」

魔物退治という単語を聞くと前回の街中の事件を思い出してし、ピクリと反応してしまう。
それはきっと、少なからずトラウマに似た感情があたしの中にあるからかもしれない。
とはいえ持病があるあたしにとって魔物退治は無縁なんですが……まあ、だからこそ大変だなって思うんだけどね。

そう人事のようにガイアスと話していると、見慣れてしまった四人がこちらに向かって歩いて来る。
噂をすれば、みたいな感じ?

「あ、おかえり!みんな無事?」

きっとガイアスに報告するためとか、偶然通りかかっただけ〜とかかもだけど、あたしは真っ先に四人に声をかけた。
誰一人、腕を借りて歩いたりとかはしてないから表面上は無事っぽいと思いながらも確認すれば、なんとか無事だとプレザが返してくれた。
まあ天下(?)の四象刃だもんね〜過小評価するなって怒られちゃいそう。

そうプレザの言葉によかったと胸を撫で下ろしたけど、あたしはとある異変に気づいた。

「……ウィンガル?」

異変……それはウィンガル。
ぱっと見たときは何も感じなかったんだけど、よく見るとなんというか……顔色が悪い。
彼はもとから顔色があまり優れてないというか健康的ではないが、今は特別に顔色が悪いように感じてしまい、気になったあたしは首を傾げながら彼の名前を呼ぶ。

あたしが名を呼ぶとウィンガルは一度こちらを見た後にすぐ顔を背け、なんだと短く返事をする。
普段のあたしならあたしに関心がないんだなぁとか思っていたかもだけど、今はそれが逆に歪なものに思えた。

まあウィンガルも人間だし、仕事沢山してるし、あるとは言えなさそうな体力で魔物退治に出たのであれば(失礼)そりゃ疲れるよねぇ……。と思ったけど、他の三人がかんなり健全なため、何がウィンガルをこうしたのかあたしは察してしまった。

「増霊極……」

ウィンガルが戦闘時に使う、霊力野から分泌されるマナを増大させる力……。
あの力を使ったに違いないと、あたしは思わず呟いてしまう。
小さく呟いたつもりだったけど皆にはしっかりと聞こえていて、使用した張本人であるウィンガルは自嘲じみた笑みを浮かべた。

「そんなことまで知っているとはな」

この世界の秩序だけでなく自分の存在について知っている……というのは嘘ではなかったのだなという姿に、あたしは言わない方がよかったかなと少しだけ後悔する。
そのあと、ジャオが口を開いた。

「長い間使いすぎただけじゃ。休めば治まるだろう」
「そう、なんだ。じゃあ医務室に……」

行こう、と言おうとしたとき、足を止めていたウィンガルが一人でふらふらと歩き出した。

「え、ちょ……!どこ行くの?医務室はこっちのはず……」
「今日のうちにやるべきことがある。休んでる暇などない」

持病の件とかで何度か医務室に行ったことがあるから場所はもう覚えてしまっていた。
そのためウィンガルが違う所へ行こうとしているとすぐに分かり、驚きながらウィンガルを追うも当たり前のようにそう返ってきた。

確かにウィンガルにはやるべきことが沢山あると思う。
でも、それって絶対に『今』やらなきゃいけないことなのかな?
あたしは違和感に眉を寄せる。

「なに言ってるの?どう考えても休むべきだよ」
「そうだウィンガル。今日は休め」

ほれ、上司もこう言ってるぞ!きっとこれは幸せなことだぞ!
そうあたしとガイアスが主張するもウィンガルは自分なら大丈夫だと意思を変えることはなかった。
歩き続けるその姿はあたしから見ても大丈夫には見えなくて、言葉だけでは止まらないと察したあたしは駆け足でウィンガルの前に立ち、行かせまいと両手を広げ彼の行く道を遮った。

「……なんの真似だ」
「医務室に行って」
「……邪魔だ」

あたしの言動にウィンガルの眉間にシワが増えていくのは見て分かったが、それでもあたしはその場から退くことはなかった。
じっと彼を見つめながら体勢を維持する。

「……邪魔だと言っている」
「なにを言われても退かないよ」

そのときか、城の中にいる兵士たちがこちらに視線をチラつかせる。
ア・ジュールのトップ五人がその場に留まってどのくらい経つか……そのこともあるが、あたしとウィンガルのやり取りが気になるのだろう。
かなり悪い意味で目立っているため、多分ウィンガルは気になっているだろうな。
あたしはそこらへんの住民Aだから全く気にならないけど!!!

「……輝羅、いい加減に「それはこっちのセリフだよバカ!」

果たしてどう出るか……そう思っていたけどウィンガルは折れず、あたしは会話を遮るとつい彼の頭を引っ叩いてしまった。
あたしにバカと言われたことや、頭を引っ叩かれたことにウィンガルは顔を歪める。

「医務室に行けって言ってるの!倒れたらどうすんのよ!だからアホ毛があるんだよバカ!ハゲてアホ毛なくなっちゃえ!」

最終的に何を言ってるか分からなくなったが、あたしはウィンガルに向かってそう言った。
ウィンガルは少し目を見開いたあと、呆れるようにため息をついた。

「輝羅の分際で……」

そして罵倒が飛んでくるのはお約束、と。
ウィンガルはそう言うとあたしに背を向け、ジャオとともに医務室の方へと歩いて行った。

やった、#遠藤#輝羅は革命のウィンガルに勝利した!もしかしなくても相手をしている時間が勿体ないと思っただけかもしれないけど!
なんて一人で小さくガッツポーズをして喜んでいると、プレザがこちらに歩いてくる。

「ウィンガルのことはジャオに任せておけばいいわ。……あとでウィンガルに何されるかしらね」
「え?」
「冗談よ。……それにしても、ウィンガルを肯定させるなんてあなたもなかなかね」

なんかよく分かんないけど、すごいことした感じ?
そしてそのことが顔に出ていたらしく、分からないならいいのよとプレザから返ってきた。

それからあたしは何にも気を留めることなく、自分の部屋に戻って行った。





基本的に馬鹿なふたり
120929

- ナノ -