Prism Transparent

09.それは不思議な色をした

あれから医者に診査してもらい薬を貰ったあたしは、まだ見ぬ自分の部屋に向かって歩いていた。
とはいえやっぱりこっちの世界でもあたしの持病の症状に名前はないらしく、喘息とかの部類かなってことでそれに効く薬を貰った。

それにしても、アグリア大丈夫かな……。
突き飛ばした瞬間に発作起こしちゃったから、自分のせいだとか思ってなかったらいいけど……。
どう考えても先に言っておくべきだったなぁと、今になってはどうにもならない後悔を抱きながら歩けば部屋の前に到着していた。

それと共に瞳に映るのはあたしの部屋の扉の前で突っ立ているアグリア。
あたしを待っていたのか、それとも部屋にあたしがいると思ってノックしようとしているのか……まああたしに用があるのは確かだろうしってことで口を開く。

「アグリア、どうかした?」

まだ部屋の前に完全に到着する前だったため、誰もいない廊下に小さくあたしの声が響く。
どうやらあたしが歩いてきていると気づいていなかったらしく、ハッとするとこちらに振り向いた。

「いや、えっと……。どうだ?体調の方は……」

あ、絶対に気にしてる。
気まずそうに下を向いてるアグリアを見てあたしはすぐに思った。
普段からは考えられない彼女の態度にあたしはやっちゃったなぁと、アグリアから一度目を逸らす。
そのあとすぐに向き直り、

「大丈夫だよ!嘘ついてると思うなら、タックルして来てもいいよ!」

どんと来い!と仁王立ちして見せると、アグリアは怪しいものでも見るかのように黙り込んだ。

「ちょ、せめてツッコんで……」

沈黙つらい。
折角元気付けようと……やり方が良くなかったのか?
あたしが肩の力を抜きながらため息をつけば、アグリアはあたしとの距離を更に縮めた。

「大丈夫……、なんだな?」
「うん」
「……たく、心配させやがって……」

ぼそりと呟いたつもりなんだろうけどらばっちりと耳に入ってきた言葉。
アグリアはあたしの体調の善し悪しを聞くとそのまま自分の部屋へ入ろうと身を翻したが、それを逃がすあたしではなかった。

「え?あ、心配してくれてたの!?」

自分のせいでは、という罪悪感だけではなかったのかと、嬉しくなったあたしはそのま自分に向いている彼女の背中に抱きついた。
抱き止められるような衝撃にアグリアの肩が跳ねる。

「ばっ……!してねーよ!てか抱きつくなぁあぁぁ!」
「えー?さっき心配させやがってって言ってたじゃない。心配してたんでしょ?そうかー。少しづつだけどデレ始めて……」
「うるせぇ!」

ぐるんとあたしの方へ勢いよく向き直り、そのままあたしを突き飛ばすアグリア。
前回のように地面に倒れることはなかったが、あたしはわざと地面に座り込み、身を縮めた。

「え?ちょ……」

そのまま何も言わないで座り込んでいると、アグリアはまた発作が起きたのかとあわあわし始める。

「おい、また……」
「うっそーん。一日に何回も発作が起きるわけないでし、ぶっ」

まあ起きてないんだけど〜ってことで両手を広げて戯ければ、アグリアから舌打ちとビンタが飛んできた。
反抗期……。

そう思いながら叩かれた頬を撫でている間に、アグリアは怒りながら自分の部屋に入って行った。
やりすぎたかな……?と少し後悔してから立ち上がり、あたしも自分の部屋に入ろうとした。そのとき、

「ぎゃっ!!ちょ、も……いきなり出てこないでよ……」

目の前にウィンガルがいた。
口から心臓出てくるかと思ったよ……。
もっかい発作起きるかと思うじゃん……?まあビックリして起きるような症状じゃないけど……?

「診査は終わったのか?」
「う、うん……。薬ももらったよ」

ほれほれと薬を揺らしてウィンガルに見せる。

「……持病があると言っていたな。どんな症状だ?」
「さっきの見て分かったと思うけど、とりあえず……咳が止まらなくなる病気。治らなかったら死ぬとか、そんなひどい病気じゃないよ」
「……原因は?」
「さぁ?」

そう言って首を傾げると、ウィンガルは目を細める。
曖昧な返事だから、怒ってるんだろうなぁ。

「咳の出る前触れはあるのか?」
「あることはあるけど……。発作が出る瞬間だから、あんまり意味がないかな……」

あたしの言葉にウィンガルはそうか、と呟いた。
目をあたしから背けたため、何か考えでもあったのかなと思い、聞いてみる。

「……何か考えでもあったの?」
「いや……。貴様は思っていたより覚えがいい。このまま刀が上達すれば、軍人にしようと思っていたのだが……」

……なんか、貶されてるのか誉められてるのか分かんなくなってきた……。

「うーん……、任務中に発作起きたらあれだし、無理だね……」

できれば魔物とも戦いたくないし……、なんて言わないけど。

「……とりあえず、体調は大丈夫なんだな?」
「うん。大丈夫だよ」

あたしの言葉に「そうか」とまた呟くとウィンガルはそっとあたしの頭を撫で、用を成したかのようそのまま去っていった。

あたしは撫でられた頭にそっと触れる。

「……意外と、優しいの……かな?」

でもやっぱりよく分かんない。
あたしは一人、そう思っていた。





それは不思議な色をした
120914

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