※「偶然なんかで唇を奪うな馬鹿」の続編





幸村とキスしてから、もう4日になる。
あれからあいつは私に付きまとわなくなった。
むしろ、避けられているのかもしれない。

だって……
あれから一度も話してないもん。

どうして?
なんでいきなり変わったの?



「…………はあ……」

「どうかしたのか?」

「柳……」



前の席から振り返って話しかけてくる柳。
昨日席替えをしたばかりの私たちは、くじ引きによって前後という話しやすい位置づけになった。
彼とは三年間クラスが一緒だから、まあまあ仲は良いほうだと思う。

そんな柳に、私の疑問をぶつけてみることにした。



「ねえ、最近幸村に変わったことあった?」

「べつに無いと思うが、それがどうした」

「最近…あいつ変だから」

「……なぜそう思う?」

「だって、その………あんまり、私のところに来ないし」



この休み時間だって、以前なら幸村が押しかけてきたはずなのに。
なのに、今日はいないし。
今日だけじゃない、あの日からずっとこうだ。

いきなりすぎて、なんか変。

前だったら「いちいち来ないでよ」とか言ってあいつのことを邪魔に思ってたのに………
どうして、今になって「今日は来ないのかな」とか思ってしまうのだろう。

邪魔で邪魔で、仕方なかったのに。
すごく鬱陶しかったのに。
「付きまとわないでよ」とか言ったのに。
今では、全然そう思わない。
…………どうして?
どうして、こんなにもやもやするの…?



「幸村が恋しいのか?」

「ち、ちがっ、そういう事じゃなくて…!なんでかな、と思ったから」

「つまり寂しいんだな」

「ちがう、もん」



寂しくなんてない。
ただ、環境がいきなり変わったから変に感じただけで。
決して、幸村と話せないのが寂しいとか思ったりしてないから。



「寂しいのなら、自分から会いに行けばいいだろう?」

「…っ…!だ、だから寂しくなんてないってば!」

「ふっ………強がっても無駄だ」

「………柳の馬鹿」



そう言って席を立つ。
向かうのはC組、あいつのところだ。
べつに会いたいとかじゃなくて………

ただ、このもやもやとした気持ちをどうにかしたいだけ。


C組では、案の定幸村がおとなしく座って読書をしていた。
その姿を見て、なんとなくほっとした気持ちになる。
久しぶりに見た彼は全然変わっていなくて、安心した。



「幸村」

「…………あ、なまえ……なにか用かい」

「なんで読書なんてしてるの?」

「好きだからだけど」

「ふーん………私のクラス来ないの?」

「なんで?」

「え、だって、いつも来るから……」

「べつになまえのクラスに用はないよ」

「あ、そう……」



なんだか冷たくなった……?
心なしか、表情も口調も前とは違い、固くなった気がする。
突き放されてるような気もしてきた。

どうして?
なんでこんなに変わったの?



「で、どうしてここに来たの」

「…………え、」



そういえばどうしてだったっけ。
なんで私はここにいるんだろう。

………ああそうだ、もやもやしてたからだっけ?
それをなんとかしたくて幸村に会いに来たのに、全然変わらない。
まだもやもやしたままだ。

つまり、このもやもやは幸村のせいじゃないってこと?。

思えばいつ頃からこんな気持ちになったんだろう。
なんか私………変だよ。
目が、熱い。(泣きそう)



「ゆき、むら…………わかん、な、いよ…」

「なにが?」

「……ぜん、ぶ……わかん、ない……っ」



どうして幸村が冷たくなったのかも、どうして私がこんなにもやもやするのかも、全部。
私には全部わからない。

どうしてこんなことになってしまったの?



「ふふっ、そんな泣きそうな顔するなよ」

「……え…?」

「俺がいないとそんなに寂しい?」



にこり、いつもの笑顔で私に笑いかける幸村。
一瞬思考が停止した。
だ、だって、どうしていきなり元に戻ったの……!!



「可愛いなあなまえは」

「ちょっ、えっ、どういうこと!?」

「押して駄目なら引いてみろ、って本当だったんだね」

「そんな………!!」



なんだったの、今までの私の苦労は!
すっごく悩んで、すっごく心配したのに。

あれは全部無駄だったのか…!



「ねえなまえ、やっと俺のこと好きって気付いたでしょ?」

「ノ、ノーコメント!」

「駄目。絶対に言わせるから」



がしっと私の腕を掴む彼。どうやら絶対に好きと言うまで逃がす気はないらしい。

いつのまにか、もやもやとした気持ちもどこかへ消え去っていた。
やっぱり、あれは幸村のせいだったらしい。



「なまえ、」

「な、なに」

「好きだろ?俺のこと」

「…………」

「否定をしないってことは肯定だと受け取るよ?」

「…………か、勝手にすれば」

「ふふ、相変わらず意地っ張りだな。そんなところが可愛いのだけど」



悪かったわね、意地っ張りで!
どうせ私は素直じゃないですよ!



「キスしていい?」

「…人がいるからやだ」

「じゃあ人がいなかったらいいんだ」

「そ、そういう意味で言ったわけじゃないし!」

「そういう意味ってどういう意味?」

「あーもう、ほんとめんどくさいな幸村は…!いちいち聞かないでよ!」

「じゃあ勝手にさせてもらうよ」



そう言った瞬間、目の前には彼の顔が広がって。
周囲の叫び声が耳に届いた。



「なっ…!!なんで今!?」

「あはは、なまえがあまりにも可愛いからつい」

「ついじゃないでしょ馬鹿ー!」



ああ、私とんでもないやつに捕まっちゃったみたい。
……でも、もういいんだ。
一生離してくれなくても、もう構わない。

幸村が離れていくことであんな気持ちになるのだったら、一緒にいたほうがまだマシだもん。





このもやもや君のせいでしょ

(これで晴れて恋人同士だね!)
(は、恥ずかしいこと言わないでよ!)


0621 たいとる:)にやり

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