いつからだったろう。 私が屋上庭園でお昼休みの大半を過ごすようになったのは。 詳しくは覚えていないけれど、あれは確か………よく晴れた日のことだった。 その日、園芸委員の当番だった私はお昼休みに庭園の植物たちに水やりをしていて。 確かその時に彼と出会ったのだ。 幸村精市くんと。 「早いね」 「あ、幸村くん」 いつもどおりのお昼休み。 私はいつもどおりに屋上庭園にいた。 私より少し遅れて来た幸村くんに、にこりと笑顔を送られる。 それはいつ見ても、優しい笑顔だった。 この時間帯、屋上庭園には園芸委員以外誰もこないので、かなりの確率で私達は2人きりになる。 お昼休みという短い時間だけど、私はこの時間が1日の中で一番幸せだった。 「なにか考え事してた?」 「え、なんで分かるの?」 「なんとなく、かな」 「……実はね、幸村くんと初めて出会った時のこと思い出してて」 「ああ……みょうじさんが当番日を間違えて水やりにきたあの日のことか」 「わーわーっ!ストップ!」 慌てて彼の腕を引っ張って、それ以上喋らないでと合図する。 「恥ずかしがらなくてもここには俺たちしかいないよ」 「そうだけどっ」 ………そう、私はここで幸村くんと出会った日、実は当番日じゃなかったのだ。 自分の中ではその日だと思っていたのだけど、どうやら勘違いだったみたいで……… そして勘違いしていることを教えてくれたのが幸村くん。 その日、本当なら幸村くんの当番だったらしい。 でも水やりに来たら、先に私がやっていて…………ね。 それが私たちの出会いだった。 あの時はたくさん笑われたなあ、お腹をかかえて苦しみだす幸村くんに怒った覚えがあるもん。 「ふふ、あの時のみょうじさん可愛かったなあ」 「う……」 「当番間違えてるの教えてあげたら、顔真っ赤にしてさ。それで笑ったら怒られたっけ」 「笑い事じゃないよ…!本当に恥ずかしかったんだからねっ」 「ごめんごめん。でも俺、感謝してるよ。今こうして一緒にいられるのは、間違えてくれたおかげだし」 「確かに……」 だって幸村くんと話す機会なんてなかったもん。 クラスも違うし部活も違うしね。 あのきっかけがなければ、今頃私たちは一言も話さずにいただろう。 その点では、あの日の自分に感謝だけれど。 「それでさ、俺、今日はきみに大事な話があって」 「大事?」 「うん、そう」 「……なあに?」 急に真面目になった声色に、私はきょとんとする。 でも表情は少し硬いように見えた。 「今まで色々と話をしてきて、さ。その……みょうじさんのこと、気になって仕方なくて、」 「………」 「きみのこと、好きなんだ」 「……!」 かああ、と自分の顔が赤く染まっていくのが分かった。 だって私、こんなこと言われるの初めてで…っ なんて返したらいいんだろう。 答えならもう決まってる。 ……けど、それをどう言葉に表せばいいのか分からない。 「えっと、あの、その、」 「………」 「わ、わた、し…っ」 口から出てくるのは、聞き取りづらいくらい小さな声ばかり。 うまく言葉にできなくて、私は俯いた。 私も好きだと、言いたいのに。 どうしても口が動いてくれない。 「みょうじさん…?」 ああ、彼が悲しそうな顔をしている。 だめ、だめよ、幸村くんにこんな顔させちゃだめ………! 目をぎゅっと閉じた私は、幸村くんに抱きついた。 態度で表してみました (えっと…これはイエスと捉えていいのかな) (ぎゅううう) (…………(可愛い)) --------------------- ヤマなしオチなしイミなしごめんなさい 0508 戻る |