朝目覚めよく起きられたら、今日はいいことがありそうだなあ、なんて気がしない? まあ…人にもよるだろうけど、すくなくとも私はそう思う。 起きてすぐカーテンを開けて、ぼんやりした明るさの外を眺めて、「んんー……」なんて言いながら伸びをしてみちゃったりして。 ああ、今日はすごく気持ちがいい朝だ! …………と、あいつが私の目の前に現れる前までは思っていた。 「あ、おはよう」 着替えや支度をすべて済ませてリビングへのドアを開いたら、第一声がこれだ。 しかも家族ではない人からの。 一応お隣りさんではあるけれど、彼は赤の他人のはず。 なのに、どうして? なんでこいつがここに…! ていうかさ、なんであんた勝手に人の家でご飯食べてんの! 「精市っ!」 「ん?」 「ん?じゃなくて、そこどいてよ!私の席でしょー!」 「え、そうだったっけ?」 「(知ってたくせにこのやろう……!!)どいて」 「やだ」 「っ!なんで!」 「俺がこの席に座りたいから」 「違うとこに移ればいいじゃん!」 「ふふ、そんな面倒なこと俺がすると思う?」 「………思いません」 「だろ?わかったならさっさと違うとこに座れ」 にこり、私に向かって微笑みかけてくる隣の家に住む幸村精市という同い年の男の子。(いわゆる幼なじみというやつかな) くそう、お母さんが台所にいて私たちの会話が聞こえてないからって好き放題言いやがって…! こいつは、親や先生の前では猫被るくせに他では素敵な本性まるだしの、まるで魔王みたいなやつだ。 ていうか、我がテニス部の中では皆がそう呼んでる。(もちろん精市には秘密で……) そんなことより、さっきあいつの背後に真っ黒いもの見えた。 絶対!絶対になんか変なオーラ出たよ!(ひいい恐ろしい!!) 「ううう、なんで私が朝からこんな目に………最悪…」 しかたなくいつもの自分の席じゃなく、その隣に座らせてもらう。 ああ、朝からなんで精市に出会わなくちゃならないんだよお… 今日はきっといいことが起きる、そんな気がしてたのに… さいあく、だ。 「あら、なまえ起きたの?」 「お母さん……」 私の分の朝食をテーブルに置きながら、お母さんは私と精市の前…というか相向かいに座る。 隣の彼はなにかのスイッチが入ったみたいで、さっきまでの黒いオーラはどこへやら、だ。(なんかもう逆にきらきらしてる) 「ていうかなんでこいつが私の家でご飯食べてるの?」 「こら、せっかく精市くんが来てくれたのにその言い方はないでしょう」 「だ、だって……!」 「いいんですよ、おばさん。俺は全然気にしてませんから…なまえなりの愛情表現なんだってわかってます」 「いやいや違うから。愛情なんて全然ないからね」 「え、なんだって?聞こえないな」 ていうかこんな歪んだ愛情表現があってたまるか!…なんて思っていたら、鋭い視線が私に突き刺さる。 恐る恐る精市のほうを見れば、やっぱりそれは彼のもので。 私は震え上がりながら言葉を濁した。(つくづく凄い眼力だと思うよ、マジで) 「ごめんさっきの嘘ですー………あはははは」 「棒読みじゃないか」 「エー?ナンノコトデスカー?」 「………ふふ、」 「ひいい!」 せっ、精市様が指をぽきぽきと鳴らしていらっしゃる…!!! なんの準備なんですかそれは! まさか私を戦闘不能にさせるためなんじゃ……!?(うわ、考えただけでも恐ろしい) そして、いきなりガシッと制服の襟首を掴まれたかと思えば、無理矢理椅子から立ち上がらせられて。 一体何なのかと彼の顔を見返したら、ものすごく爽やかな笑顔で「学校行くぞ」なんて言い放たれた。 ……多分今の精市を見て卒倒する女子は数え切れないほどいると思う。 「ま、まって、私まだ朝ご飯が「そんなひまないよ」 「だって一口も食べてな「そんなの知らない」 「いちいち私の言葉を遮らないでよ!!」 「あはは!」 「笑うなあああっ」 明らかに遊ばれてる、なんて自分でも痛いくらいわかってる。 人をいじめるのが好きな精市と、何故か人にからかわれやすい私。 一緒にいれば必ずといっていいほど私は彼にいじられる。 それが嫌だからといって精市と距離を置けば、それはそれで後に酷い目にあわされるし。(精市にね) 彼いわく、"俺から離れたら許さないよ"だそうだ。 だから私は生まれてから今まで、ずっと精市に束縛されてきたみたいなものなのです。 「じゃあいってきます」 「いってらっしゃい、二人とも」 「また来ますね」 あああ、結局私朝ご飯抜きじゃん…………なんて思いつつ、素直に精市に引っ張られていった。(引きずられていったに限りなく近いけどね) つまり、まだ襟首を掴まれたままだったのだ。 まるで親猫が子猫の首をくわえて運んでるときのようだなあ、とか思っちゃったりして。 「ふふ、精市くんとなまえは相変わらず仲良いのねえ」 なんでそうなる!!? 王子様に連れられて (待っているのは、地獄の登校時間) 0226 戻る |