「あ、なまえ」

「………げっ…」



嫌な奴に出会った、と思い顔がひきつる。
…嫌な奴とはC組の幸村精市のことだ。
なぜか私につきまとってきて、しまいにはお昼を一緒に食べないかと迫ってくることも時々ある。

まさか、こんなやつと廊下で会うなんて……いや、同じ学校に通っているかぎり、絶対に避け続けることは出来ないのだけど。



「せっかく会えたっていうのになに?その反応は」

「べ、べつに」

「ふふ。べつにってどういう意味かな」



にっこりと幸村が微笑みかけてくる。
心なしか背後に黒いオーラが出ているような気がするのは私の気のせいですか…!?

だ、誰か。
誰か助けて!
私を逃げさせて!(幸村の元から!)



「なまえ、音楽室へ行かないのか?」

「あ、柳ごめん………!」



そうだ、隣には柳がいたんだった。(音楽室に一緒に行こうって約束してたの)
ナイスだよ柳ありがとう!
逃げる理由見つけた!



「じゃあ幸村、私たち次音楽だから失礼す……」

「なまえは柳といつも行動しているの?」

「…………は?」



少し淋しそうな様子の彼に、思わずまぬけな声が出る。

いつもって…………
いやいや、そんなわけないじゃないですか。
確かに柳と同じクラスではあるけれど、べつにいつも一緒なわけじゃない。
今日はたまたま柳が私の目の前にいたから、一緒に行こうと誘っただけだし。



「なまえには俺がいるのに、他の男と一緒にいたりするんだ…」

「いや、たまたまだって」

「浮気は許さないよ、…ああ、もう二度とこんなことがないように調教しないとだな。手錠も用意しておかないと」

「浮気っていうかそれ以前に私たち付き合ってさえいないからね!」

「じゃあ付き合おうか」

「絶っっ対ありえない!!」



調教とか手錠とかそういった不穏な言葉を軽々と口にする奴となんてまっぴらごめんだ!
それになんで私が好きでもない幸村と付き合わないといけないわけ?
無理だって!
絶対やばいことされるよぉぉぉ!(想像したくない…!!)



「まったく、なまえは本当にツンデレだな」

「誰がいつあんたにデレた!?」

「ふふ、わかってるよ、なまえは俺に嫉妬させたかったんだろう?可愛いなあ」

「(お願いだから人の話を聞いて……!)」



幸村はどこまでマイペースなんだろう。
てか本当にこいつの頭の中どうなってるんだ。
マジおかしい。

柳はといえば、呆れているのかさっきから口を閉じたままだし。
お願いだから音楽室へ行かせて下さいよ幸村くん。

…そんなことを考えていると、私を除いた2人が話し出した。
何回言っても私の話は聞いてくれないらしい。



「嫉妬はほどほどにな、幸村」

「………だいたい、柳が悪いんじゃないか。なまえは俺のものなのに!」

「ちょっと!柳に責任転嫁すんのやめなよ!てかあんたのものじゃないだろ!!」

「柳をかばうの…?」

「か、かばうとかそういう問題じゃなくて………!」

「なまえは俺のこと、きらい?」

「はあ…!?」



今度は一体なんなんだ!
そんな切ない顔して嫌いかなんて尋ねられても……………嫌いに決まってるじゃんかアホー!
でも、どっちかというと嫌いというより苦手だよ。
幸村と話してると疲れるもん。



「ねえ、きらい?」



もう一度訪ねられる。
なんでだか分からないけれど、すごく返答に戸惑った。
嫌い、なんて答えても本当にいいのだろうか……
それを言ったら、私たちはどうなる?
もう、幸村は私に付きまとわなくなる?

……………そうだったらいいのだけど!



「き、きら………っん!?」

「…ああ、ごめんね?よろけちゃった」



いきなりのことに、放心状態になる。
だ、だって今、私…………

キス、した?

え、キスされた?
幸村に………キス…された…………



「えええええーっ!!」



叫びつつ、頭のなかで冷静に物事を考えようとする。

いいい、今何が起こった?
急によろめいた幸村が近付いてきて………
あああ、やっぱりキスされたっていうかしちゃったんだ!

思わず泣きそうになる。
死ぬほど恥ずかしかった。
だって……周りに人がいたのに。



「ふふ、」

「ど、どう、して……」

「偶然だよ、偶然」

「…………」



偶然だなんて、なんでそんな簡単に言うの?
初めてだったのに。
てかあれは本当に偶然だったの?
にこにこ笑ってる幸村を見ると、偶然じゃなくて故意にやったように思えるんですけど。

なんだか無性に腹立ってきた私は、きつく彼を睨み返して叫んでやった。



「幸村のばかやろぉぉぉぉ!!!」




偶然なんかで唇を奪うな馬鹿

(行くよ柳!)
(ああ。………幸村を置いていっていいのか?)
(あいつなんて知らない!)


0621 たいとる:)にやり

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