「だぁぁもう無理!!!」

「無理じゃない!」



頭を抱えて叫びだすブン太に、私は大声をあげる。
今、私はブン太の部屋にいた。

なぜこんなことになっているのかというと……

この間、ブン太が真田と練習試合をしたとき、ブン太が負けたのだ。
それでその結果、彼は幸村に一週間お菓子禁止令を出された。
もちろん私はいいきみだと思ったよ、少しくらいは我慢したほうがブン太が将来メタボになってしまうという可能性を打開できるかもしれないしね。

…………でも、まさかこんなに禁断症状がでるとは思わなかった。
今日でまだ2日目だというのに、ブン太はイライラしだして。
しかも学校ではかなり近寄りがたいオーラを出してたし。

お菓子がないと生きていけないのかお前は、とか言いたくなる。
そして私はそんなイライラしっぱなしのブン太を見張ってるのだ。(隙あらばお菓子を食べようとするからね)



「男なんだからあと5日くらい我慢しなさいよ」

「無理無理無理ー!」

「お前は子供か!」

「まだ中学生だし」

「はぁ、これだからガキは……」

「いや、だから中学生だし。つかお前も同い年だろい」

「私をあんたと一緒にすんな」

「あああ甘いもん食いてえー!」

「うっさいわ!」



ベッドの上でごろごろと地団駄をふむ彼を叱りながら、私は呆れ果てる。
……そこまでしてお菓子が食べたいのか。
まったく、相変わらず可愛いな……ってそうじゃないそうじゃない。
なに考えてるんだ私!
あああ、くそ、ブン太なんて可愛くない!

…………う、やっぱり可愛い。



「なまえ、一口だけでもいいから」

「だめだよ、幸村に死ぬまで絶対あげるなって言われてんの」

「なんだよそれ一週間じゃないじゃん!」

「……あ、たしかに」



うーん、そういえば幸村の言ったこと矛盾してるな…
……でもそれを指摘したら「この世界のルールは俺だ」とか言い出しそうだからやめておこう。



「痛っ……ってコラ!腕を噛むなー!」

「ううー」

「ぎゃああああ!」



あんまり暴れるものだから手で押さえつけておいたところ、なにを思ったのか私の腕に噛みついてきたあいつ。
すぐさま引き離し、私は後ずさった。
加減してるのか、甘噛み程度だったのであんまり痛くはなかったけれど………
あれ、これ見間違いじゃないよね?
歯形ついてる。



「ちょっと!なにしてんのよ!!」

「はぁ、お菓子食いてえ……」



ため息つきやがったなコノヤロー……!!



「馬鹿ブン太!」

「なぁなぁ、俺思ったんだけどさ、」

「お願いだから人の話を聞いてください」

「む……なんだようっせえな」

「お前こそマジふざけんな」



なんでこんなにイライラしてんの?
てかなんで私がとばっちりを受けなくちゃならないの。
理不尽だろーっ!

お菓子禁止なのは私のせいじゃないのに!



「………で、なに?」

「あ、そうそう。我慢できないからヤっていい?」

「………は、え?」



いま、なんて?



「いいよな」



そう言って私に近付いてくるブン太に、冷や汗がでる。
なにこの満面の笑み、恐いんだけど…!
恐怖を感じて素早く後ずされば、壁にぶつかった。
背中に硬い壁を感じながら、私は真っ青になる。

追いつめられ、た。



「たくさん鳴けよぃ?」

「ひ、っ」



首筋に彼の顔が近付いてきて、赤い髪がふわりとくすぐったかった。
そして、弱く噛まれる。


ブン太にお菓子を禁止させるのはもう二度としないほうがいいかもしれない。





愛しの馬鹿に咬まれた痕


0723 たいとる:)にやり

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