「うっわ、すごい雨」



ザーザーと降る雨を、部室の中から眺める。
辺りはもう薄暗くて、心なしか雷まで鳴り始めているように感じた。
一向に止みそうにないなあ、この豪雨。
まったく、この間梅雨明けしたばっかりだっていうのに一体なんなんだ。
……あ。あれか。
雨嫌いな私に向かって嫌がらせしてるんだろ………!!!
今朝から降りっぱなしだなんて、ほんとたちが悪い。



「あれ、なまえ先輩まだ残ってたんですか?」

「おー、長太郎」



ふいに開いたドアから誰かが顔を覗かせたかと思えば、それは後輩で。
彼はソファーでくつろいでいる私の隣にさりげなく座った。
ていうかなんでこの部室にはソファーがあるんだろう……とか、たまに思う。(まあ跡部の仕業だろうけど)

それと、他の部員は部活の後とっくに帰ったはず。
なのになんでこの子は…?



「なんでまだ帰ってないの?」

「少しピアノを弾いてきたんです。それで、帰ろうとしたらまだ部室に明かりが点いてたので寄ってみたんですけど……先輩こそどうして?」

「あー、うん……帰ろうかと思ったんだけどさ、雷が鳴ってるからやめようかなって」

「恐いんですか?」

「違うよ、危ないから嫌いなだけ」

「へえ………なまえ先輩にも嫌いなものあったんですね」

「ちょっと、いつも私をどんな風に見てんのよ」



そりゃあ、年頃の女の子だし。
私にだって苦手なものや嫌いなものの一つや二つ、あるに決まってるじゃんか!

だからそんな意外そうな顔すんなあああ!(先輩に向かって失礼だぞ!)



「どんな風って……それは、」

「はあ?」

「女の子として、ですけど」

「馬鹿、そこは先輩として見るべきでしょ」

「いや、そういうことじゃなくて、俺は真面目に先輩を」

「あーはいはい、わかったってば」

「……………っ、全然わかってくれてないじゃないですか!」

「……え?」



いきなり、声を荒げる長太郎。
いつもとは違う気迫に、少し焦った。
私、なにか気に障ること言った……?
だって、なにかが違う。
今日の彼はいつもの優しそうな感じじゃなくて、もっとなにか別の…………とにかく、いつもとは違う。

視線が、鋭い。

……こわ、い………



「いつもいつも、あなたは俺のことなんて見てくれてない」

「え、?ちょ、た…ろ……?」

「こんなに俺は焦がれているというのに、」

「どう、したの?」

「"どうしたの?"ですか?はは、笑わせないでくださいよ。なに弱気になってるんですか、らしくない」

「え…っ」



乾いた笑いをこちらへ向けてくる。
恐怖によって、心臓がドクドクと早くなっていっていることに気付いた。
この場から逃げ出したい…
けれど、それは無理だった。
逃げようと思った瞬間に、腕を掴まれてネクタイで拘束される。
それから、押し倒されて。
お腹のあたりに跨られた。

意外ときつく縛られていて、手首が痛い。



「いや……!いた、い!!」

「無闇に動かないほうがいいですよ?」

「長太郎、どうして…!?」

「それはなまえ先輩が欲しいからです」

「!な、なにそれ…っ」



私が、欲しい?
……どういうこと?



「お願いです、先輩。大人しく俺のものになってください」



私の首のあたりを優しく撫でながら、長太郎が言う。
彼の大きい手が動くたびに、ぞくぞくと痺れたような感覚に陥った。

……怖い。
確かに怖いのに、目をそらすことができない。



「や、め…………」

「駄目です。もう離さない」

「ん、んん…っ」



そして、濃厚なキスが降ってくる。
私を、逃がさないために―――――





愛情マッドネス

(愛してる愛してる愛してる)
(だから、僕を愛してください)


0721

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