最近、私の日課は「放課後、テニス部の練習風景を教室から眺めること」に変わりました。
もう、ここから幸村くんを見つめるようになって何日目だろうか。
月、火、水………時間はどんどん過ぎていって、今日は木曜日だから4日目になるかな?
テニスコートは校舎から結構遠くにあるから、教室からはよく見えない。
でもね。
ここからじゃないと、隠れて見るなんてこと、できないから。
私は毎日、目を凝らして彼のことを見つめるのです。
………なーんて、昨日から双眼鏡持参してきてるから、遠くのこともばっちり見えるんだけどね!
「えへへ…やっぱり幸村くんかっこいいなあ!」
球を打つ動作も、拾う動作も、全部全部素敵に見えるのはきっと恋のせい。
双眼鏡のレンズ越しに拡大されて見える彼の姿は、いつもよりずっと輝いて見えた。
……しばらく幸村くんの近くに行ってないから、かな?
ああっ、今度は腹チラ!
最近の幸村くんは動きが激しいというか、なんというか………とにかくサービス多すぎじゃないかなあ!(鼻血出ちゃう!)
「気持ちわる。双眼鏡なんて持ってなにやってんの?」
「どうせテニス部でも覗いてるんでしょー?」
突然背後から聞こえてきた声にはっとする。
恐る恐る振り向けば、教室のドア付近に2人の女生徒がいて、私は睨まれていた。
そして、ずかずかとその2人は私の前まで進んでくる。
なんだろう………すごく嫌な予感、が。
「花島ってあんたでしょ」
「そ…それがなにか」
「この泥棒猫!」
「はあ!!?」
え、え、泥棒猫!?
なにが!?
えっ、私が!?
「ちょ、何の話!?」
「とぼけんじゃないわよ!立海の王子様である幸村くんだけじゃなく、とうとう丸井くんにまで手を出したって話じゃない!二股なんて最低よ、この泥棒猫!女豹!雌豚!」
「なっ、なにそれ!手なんて出してな………」
「嘘つかないで。あんたのこと噂になってるんだからね」
「そうよ。幸村くんにしつこくつきまとってたくせに、相手にされなかったからって今度は丸井くんに乗り換えたの?最低」
「そんなことないっ、私は幸村くんだけが好きなの。丸井くんと私の噂はでたらめだよ!」
「どこにそんな証拠があるのよ!」
「あ…っ、きゃあ!」
どうしてこんなことに、そう思った時にはもう遅かった。
2人のうちの片方の子に肩を押されて、私はバランスを崩して倒れる。
ガタン、机と共に豪快に倒れ込んだ先は………もちろん、教室の床。
痛いと叫びたいのに、うまく声にならなくて唇を噛んだ。
背中や腕の痛みよりも、倒れ込む際に机に当たった太ももの方が遥かに痛い。
「ちょっと、これやりすぎじゃないの?」
「こ、このくらい平気よ!」
じんじんとした鈍い痛みを耐えながら、私は起き上がる気力もなく太ももを押さえていた。
2人の会話に集中することさえ、できずに。
「何やってるんだお前たち!」
「げっ、先生きた!」
「やば!」
どうやら先生が来たみたい。
むくり、体を起こしてみると青ざめた顔の2人が先生に捕まっていた。
「大丈夫か、花島」
「は、はい」
「そうか。まったく放課後になにやってんだ………3人とも職員室に来なさい!」
ええっ、私まで!?
ついてない木曜日
(今日は幸村くんの腹チラが見れたこと以外、いいことないよ……)
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