「花島、おる?」
月曜日のお昼休みのことだった。
いつもどおり、友達と一緒にご飯を食べようと机を寄せ集めていた私に、いきなり呼び出しがかかる。
教室のドア付近から聞こえた声に見覚えがあったので振り返ってみたら、それは案の定仁王くんで。
………まあ、あれだけ色気のある声してたらすぐ仁王くんだってわかるけれど。
私はクエスチョンマークを頭上に浮かべながらも、駆け寄った。
「なに?」
「今、少しいいか?」
「え?あ、いいけど…」
そう答えるや否や、無言で腕を引っ張られて連行される。
急な展開に頭がついていかなくてとっさに友達の方を振り返れば、彼女たちは「行ってらっしゃーい」なんて言いつつ笑顔で手を振っていた。(なんで!?)
目の前をさっさと歩いていく仁王くんに、私は腕を掴まれていたせいで逆らえず、小走りでついていくことしかできなかった。
しばらく歩いてようやく着いた先は、校舎の中でも陽当たりが悪く人があまり寄り付かないことで有名な階段の踊り場。
どうしたの仁王くん、そう言おうとした時に、私は壁へと押し付けられる。
覆い被さるようにして上から見下ろしてくる彼が心なしか機嫌悪そうに見えた。
「えーっと………なんなんですか」
「お前さん、丸井と付き合ったって本当か」
「は!!?」
私が、丸井くんと!?
いやそんなまさか!
私が好きなのは幸村くんだよ!?
「どこでそんな話を聞いたのかは知らないけど、違うよっ!」
「噂になっとるぞ、2人のこと」
「えっ、なんで……!」
「日曜、ケーキ屋でお前さんらが一緒にいるところを見た奴がいたらしくてのう。それに加えて、今朝のこともあったし」
「今朝?」
「一緒に登校してきたじゃろ」
「あ……!」
確かに今日は一緒に来たけど、まさかそれで噂になるだなんて……
今までにも何回か丸井くんと一緒に帰ったりとかしたけど、噂にはならなかったのに……今更どうして?
もしかしてケーキ屋にいたこと、デートだと思われた?
「おい仁王っ!」
突然仁王くんの名前が呼ばれたかと思えば、階段には息の切れた丸井くんがいて。
はあはあ、肩で呼吸をしているところを見るとどうやら走って来たみたいだった。
「ほう、よくここが分かったな」
「廊下で見かけて………っていうかなにしてんだよ、離れろぃ!」
「えー」
「えーじゃねえ!」
「ブンちゃんこわーい」
「ブンちゃん言うなコラ」
クククと笑う仁王くんを睨みつける丸井くん。
2人のじゃれあいを見て、本当に仲がいいんだなあと思った。
「ったく、こんなところに連れ込みやがって……花島、大丈夫?」
「あ、うん、平気」
「なんじゃそれ、人聞きの悪い。人をまるで狼みたいに…」
「事実だろい。まあとにかくなにもなくて良かった」
「……なにかした方がよかったかの?」
「ひ、っ」
仁王くんの腕に腰を引き寄せられて、ぞくり、体中が粟立った。
このスキンシップには毎回ひやひやさせられるよ…!
「は、離し……わああっ!」
「おま、どこ触って、」
「さーて、どこじゃろうな?」
「「ふざけんな!!」」
「いてっ」
すかさず私と丸井くんからのパンチが命中する。
仁王くんはわざとらしくよろけて、「プリッ」といつもの口癖を放った。
だって私、む、む、む、胸を、触られた……!!!
正確には胸を下から少し持ち上げられただけだけど!!
でもそれセクハラだよね!?
明らかに故意で触ったよね!?
うわああああっ、この変態野郎!
「今度私に触ったら首締めてやる!」
「それは楽しみじゃのう」
「む、むかつくううううう!!!」
いけないボディタッチ
(じゃ、さっそく)
(うわああっ、触らないでって言ったそばから!)
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