『………好きじゃ、ないよ。今のところはね』



この間の幸村の言葉が、頭の中をぐるぐると駆け回る。
好きじゃない、か…
情けないけれど、その言葉を聞いてほっとしている自分がいた。
だって幸村が花島のことを好きだって言ったら、その時点であいつらは両想いになって俺の恋は終わりだから。

でも、さ。
俺、気付いたんだ。
あいつの気持ち。

あの時はあんなこと言っていたけれど、あいつは自分自身の気持ちに気づいていないだけ。
幸村は多分、もう…花島に惹かれ始めてる。
少なくとも俺はそう感じた。

やっぱり適わないな、幸村には。
どうあがいても、きっとあいつは花島を攫っていってしまうだろう。



「おはよ丸井くん!」



考え事をしていたなか突然話しかけられたかと思えば、それは花島で。
ふんわりとした薄いピンク色の花柄ワンピースを着て立っていた。

なぜ俺が花島とこうして待ち合わせしているかというと、今日は一緒にケーキバイキングに行くっていう約束をしていたからで………



「ごめんね、待った?」

「いや、俺も今来たとこ」

「そっか」



よかったと微笑む彼女に、俺はほんのり赤面。

昔からの仲だし、こうして2人きりで会うことも大して珍しいことではないのに、どうしてこんなにもドキドキするのだろう。



「ケーキバイキングはおやつってことにして、3時頃行けばいいよな。だからそれまでどっか行こうぜぃ!」

「そうだね」



今日くらい良いよな。
誰にも邪魔されずに花島との時間を楽しんでも、さ。





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「うまー!」



そして、3時頃。
俺たちは例のケーキ屋にいた。

さっきまでショッピングしたりゲーセンに行ったりとわいわい騒いでいたせいで腹減っちまったしな。
…もちろん、お昼ご飯は食ったけど。
でもやっぱり甘いものは別腹だろい?

ショートケーキにモンブラン、ティラミス、チーズケーキ、アップルパイ、苺のミルフィーユ…………ああもう、全部うまそう!



「丸井くん、クリーム口についてる」

「えっ」

「あはは、子供みたい!」



子供みたい、か。
確かに俺はかっこいいとかより可愛いとか子供みたいって言われる方が多いけど、さすがに好きなやつにそう言われるとへこむ………



「花島、」

「ん?」



もぐもぐ、ベリータルトを口に含みながらあいつは答える。



「お前、どんな奴が好みなの?」

「んー…自分でもよくわかんないや」

「じゃあ幸村のどこに惹かれたんだよ?」

「全部、だよ。大人っぽいところも子供っぽいところも、負けず嫌いなところも、全部全部、好き」

「………そっか、」



なんでだよ、なんでなんだよ、そんな幸せそうな顔して幸村の話なんかするなよ。

やっぱり俺じゃ駄目なの?

………俺、お前のこと、昔から好きだったのに。
ずっとずっと、お前だけを見てきたのに。


でも花島は、幸村のことを――――……



「なあ、話変わるけどさ」

「うん」

「明日朝練ないから一緒に登校しようぜ」

「いいけど……珍しいね、丸井くんが一緒に行こうって」

「たまにはいいだろい?」



だって俺、そろそろ失恋しそうだし、さ。
今のうちに独占させてくれよ。

幸村もそこまで鈍感じゃないから、きっと近いうちに自分の気持ちに気付くはず。


そうしたらもう、俺は……



「とにかくケーキ食おうぜ、まだ食ってないやついっぱいあるしな!」

「えっ、私もう4個食べたからいいよ…!」

「そんなんだから痩せてんだよお前は」

「女の子の気持ちなんて丸井くんには分からないよ!」

「ははっ、だろうな」



分かってたらこんなに苦労してねえっての。





恋を手放す覚悟はできてる

(勝ち目のない恋に走るくらいなら、今の関係のままお前と笑っていたい)





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