「幸村くんはいますか――――っ!」
「なんじゃ花島、幸村に用か?」
「あれっ?仁王くん……」
今日はバレンタインデー。
女の子にとっては好きな男の子にチョコレートをあげる、大切な日だ。
もちろん、私にとっても例外ではなくて。
バレンタインだから幸村くんに私からの愛がめちゃくちゃたっぷりこもってるチョコレートをあげるのです……っ!!
……と、意気込んで放課後のテニスコートに来てみたけれど。
最初に出会ったのはお目当ての彼じゃなく仁王くんだった。(横に丸井くんもいる)
「お前幸村を探してんの?」
「あ、うん……って丸井くんたちすごいねその紙袋」
「あー……これ?」
二人の横には、一つずつ紙袋が。
中を覗いてみると綺麗な包みがたくさんあった。
多分……チョコレートだよね?
「相変わらずモテモテだねー」
「いや、でも幸村のほうがすごいぜよ」
「あははっ、当たり前じゃないか」
「「「………え?」」」
三人で話していたはずなのに、おかしいなあいつの間にか人が増えてる………
そう思って後ろを向けば、そこにはにっこり笑顔の幸村くんが。
うわあああ、幸村くんから私のもとへ来てくれるなんて最高に今日ついてるじゃん!!(やったラッキー!)
えへへ、嬉しさで顔がにやける……なんてことを思っていたときに、そういえば、と思い出す。
私がここへ来たのは幸村くんにチョコを渡すためなのだから、きちんとミッションコンプリートしなきゃ!
「ゆ、幸村くん!」
「こんにちは花島さん」
「あ、こんにちは……ってそうじゃなくて」
「なにか用かい?」
「あの、今日はバレンタインだからね、幸村くんにチョコを作ってきたの!」
「本当?嬉しいな」
はい、なんて渡したらきちんと受け取ってくれた。
う、嬉しいって!!
私からのチョコ嬉しいだって!!
きゃああああ私こそ嬉しすぎるよ幸村くんーっ!
そんなはにかんだ素敵な笑顔で私を見つめないでーっ!!(鼻血がっ)
「いや見つめてないしね」
「えっ、そんな!なんで!声が!」
「ばっちり聞こえてたよ」
「や、やだ恥ずかしい…」
「いまさら顔を赤らめられても……」
「「ちょっとまったあああ!」」
「え、な、なに二人とも!」
私と幸村くんが仲むつまじく会話していたと思えば、丸井くんと仁王くんはそれを大声を出して邪魔する。
ちょっとむかついたけど、押さえろ私。
てか二人は一体なんの用なんだ!
「俺らには無し?」
「え?……………あ…チョコ……」
「ったく、いかにも忘れてましたみたいな顔すんなよ花島ー」
「え、えへへへへ……」
「笑ってごまかそうったって、そうはいかんからのう?」
「うっ…………ごめん……」
まさか私ったら二人の分を忘れるなんて。
そういえば作ってるときは幸村くんのことばかり考えてたからなあ……
幸村くんが受け取ってくれるかな、とか、食べてくれるかな、とか。
とにかくいろんなことで頭がいっぱいだったから忘れちゃったんだ。
ごめんよ二人ともどうか許してください……!
「こうなったら、」
「……あっ」
ひょい、と幸村くんの手から軽々とチョコレートを奪う仁王くん。
ニヤリ、と笑ってこちらを見る。
そして何をいうかと思えば。
「幸村は他のやつからたくさんもらっとるからいらないじゃろ?」
「なにを言ってるの?仁王だってそうだろ」
「お前さんほどではないがの」
「十分だ」
「俺は花島からのが欲しかったんじゃ」
「あ、俺も欲しい!」
「残念だけど。それは俺が花島さんに貰ったものだから」
「そうケチケチしなさんなって」
「…………」
ど、どどどうしよう!
困ったぞ……!なんだか修羅場のような感じになってきてるんだけどこれ一体何事!?
え、もしかして私が幸村くんだけにチョコ渡したのがいけなかったの?
そんなっ、だって本命は幸村くんだし……っ!
と脳内パニックに陥っている間にも、話はどんどん進んでいく。
「皆で分ければ問題解決じゃね?」
「おお、たまにはいいこと言うのうブンちゃんも」
「はあ…………仕方ないなお前たちは」
「よしっ、交渉成立だな」
そう言って、今ここで食べる気なのか、包みを開きだす皆。
えええっ、本当に三人で分けるつもり!?
それ幸村くんの為だけに作ったものなのにー!?
争奪戦なバレンタイン
(あああ、幸村くんへの愛が三分の一に…!!)
「ごめんね、花島さん」
「う、ううん、幸村くんが悪いわけじゃないから……」
「え、じゃあ俺らのせい?」
「お前さん最低じゃなー」
「…ってお前も同罪だろい!!」
「ふふ、うるさいよ二人とも」
「「…………はい」」
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