「あああああ、やばいやばいやばい……!」
放課後のテニスコートで、テニス部の(主に幸村くんの)練習風景を見守る私。
ほんとにもう、やばい。
やばいやばいやばい!
なんていうか、色気が……!!(鼻血がでそう!)
飛び散る汗と、ボールを返すときの声がはんぱなくセクシーだ。
いつもの清楚な制服姿もいいけど部活中のジャージ姿もいいよね。
どっちもかっこよすぎる。
ていうか幸村くん…………そんなに私を興奮させてどうするのー!
「きゃああああ!幸村くーんっ」
「………………」
「幸村くん幸村くん幸村くーんっ」
「なんか凄い勢いで呼ばれてるぜよ、幸村」
「あはは気にしないでいいよ。無視して、無視」
「愛しの幸村くーんっ」
「いや、でも………まだ呼んでるぞ」
「仁王、無視だって言ってるだろ。俺の言ってることが分からないのかい?」
こそこそと、隣にいる男の子となにかを話している幸村くん。
確かあの人は…………仁王くん、だったかな?
この間、丸井くんが同じクラスのやつだって紹介してくれた気がする。
……ってそんなことよりも、なんで幸村くんはこっちを見てくれないんだろう…
思えば、最近は避けられてばかりだ。(いや、初めて会った時からそうだけど)
幸村くんてば冷たいなあ……
でも、そんなところも私は大好きよ!
「おーい、こんなとこでなにやってんだ?」
「あ、丸井くん」
「また幸村の観察?」
「もっちろん!」
「よく飽きねぇなあ、お前。あんだけ無視されてんのに」
「ふふっ、照れてるんだよきっと!可愛いよねー!」
「花島の前向きさには感心するぜい……」
呆れた顔をしてこちらを見てくる丸井くんに、なにが前向きなの?と問い返す。
すると、はあ……、なんて溜息をつかれた。(かなり失礼だな!)
まったく…………君は一体なにが言いたいんだ。
そして、ふいに私達の目が合って、それからじっと見つめられる。
その視線に、思わず後ずさりしそうになった。
だって、珍しく真面目な顔だったから。
いつもの余裕そうな顔でも、楽しそうな顔でもなくて。
こんな表情もするんだ、なんて見入ってしまう。
「なあ、たまには俺の観察でもしたらどうなんだ?」
「……………へ?」
真面目な表情でそんなことを言うものだから、思わずまぬけな声しか出なかった。
まさかそんなこと言われるなんて、と自分自身驚きを隠せない。
まあ、でも目立ちたがりな丸井くんのことだから、あの天才的な技の数々をもっと見てもらいたいんだろうけど…………
「駄目だよ、丸井くん」
「……なんで?」
「私の目は幸村くんを見るためだけにあるの。だからごめんね?」
「……………」
「あ、ほら、見て見て!幸村くんが!幸村くんが笑ったー!きゃあああ、私にも笑いかけてくださーいっ!!」
「ちょっ、お前静かにしろよ、皆見てるだろい!」
「幸村く――――――ん!!!」
ぶんぶん、と手を幸村くんに向けて大きく振る。
丸井くんが制止してきたけどスルーだ。
やっぱり彼は素敵だよね、ほら、あの腕を組みながら優雅にベンチに座ってるところとかかなりグッとくる…!
くそ……っ!!
できることなら、今あのベンチになりたい……!!(そう呟いたら隣にいる丸井くんに変な目で見られた)
「ベンチになりたいとか、もう重症だな」
「うるさいやい!羨ましいじゃん幸村くんに座られてるなんて!あああ、私も座られた…………………ふぐぇっ」
いきなり、口元を後ろから誰かに塞がれる。
丸井くんは隣にいるから塞ぐなんて行為無理だ。
それに、私の後ろを見てびっくりしてる……し。(じゃあ一体だれ!?)
私の口元を覆うその手を見れば、そこにはあのレギュラーだけが付けられるという黒いリストバンドが。
確か………重りが仕込まれてるんだっけ?
……って、そうじゃくて、誰だ私を苦しめる最低なやつは!(レギュラーの中の誰か、とはわかったけれど)
「花島さん、少しくらい静かにする努力をしようか。うるさいよ」
「ふぐぐ………っ!!」
「……ふふっ」
この声は、と我にかえる。
この麗しい声はあの人だ。
さっきまでベンチに座ってたはずの、私の大好きな大好きな幸村くん…っ!!
…………ていうか、きゃああ、幸村くんが私に触れてるっ……!!!(え、なにこれ今日はほんとにラッキーDAY?)
なんとなく、なんとなくだけど密着しているように感じて、心がざわめきだす。
しかも声がかなり間近で聞こえるんですけど……!!!
うひゃあ、ぞくぞくする!
でも……………あれ?
「んん、………んーっ」
「………ん、なに?」
「んふ、………ぅっ」
「………ああ、苦しいの?」
こくこく、と首を上下に振る。
彼の近くに居られるなら………………と思うけど、駄目だ、く、苦しい……!!
でも幸村くんから離れたくないいいい!(この場合どうすればいいのー!)
「ぐぅう………っ」
「あはははは」
「ちょっ、待て幸村!笑ってる場合じゃないだろい!」
「あれ、ブン太いたんだ?」
「いや……最初からいたんだけど」
「へえ、全然わからなかったよ」
「(ぜってえ嘘だ………!!)っていうか花島が!」
「花島さんがどうかしたの?」
「かなり苦しそうにしてんじゃん!」
「ああ……………そう、でも大丈夫だよ。だってほら、」
まだ倒れてないからね
(いやいや、そういう問題じゃねえし!)
← →
:)戻る