「疲れたあああっ」



あれからまた数時間後。
切原くんの叫びによって、みんなは手を止めた。
「今何時ですか?」という柳生くんに、「9時だ」と真田くんは答える。



「もう9時かあ…なんか時間って過ぎるの早いね」



さっきまで3時くらいだったはずなのに……
幸村くんとコンビニに行ったのがついさっきのように思えてくる。
…いや、でも確か7時頃に夕飯を食べたんだっけ。
そういえば、真田くんちのお母さんの和食おいしいなあ、なんて言って食べてたよ私。
ちゃんと幸村くんの隣だけはキープして、それから仁王くんも私の隣に座ってきたんだよね。
で、また言い争いとかして、真田くんに怒られて、それからそれから……

また勉強、始めたんだっけ。



「みんな一通り勉強し終わったみたいだし、そろそろ帰ろうか」



その幸村くんの言葉にみんなは賛成して、帰る支度を始める。
私もペンケースやら教科書やらをバッグにしまった。



「花島さん、送っていこうか?」



それは、みんなが玄関で靴を履いていた時のことだった。
幸村くんの珍しく甘い言葉が私に向けられる。

え、えええ?
送っていこうか………って私を?
幸村くんがわざわざ私を送っていってくれるってこと?
ななな、なにこのシチュエーション…!
今日はほんとについてる。
愛しの幸村くんと一日中一緒にいられたし、たくさんお話できたし、それに2人きりでお買い物もできた。
なんで今日はこんなにラッキーなの??
なんだか後で不吉な事が続きそうで怖いよ……!!!

でも、まあ、うん。
今は目先の幸せを堪能しようか。
幸村くんと一緒に肩を並べて帰るの、密かな夢だったんだよね…!
帰る方向が違うから、毎日部活見学してるとはいえ一緒には帰れないし。

もうとにかく、すっっっごく幸せ―――――っ!!



「花島さん?」



返事もせずに幸せに浸っていた私を不思議に思ったのか、もう一度名前を呼ぶ幸村くん。
ああ、その困った顔もまた一段と素敵です!



「幸村くん、ぜひ!ぜひ送ってくれたら嬉しいなあ、なんて!」

「そう、良かった」

「(笑顔がまぶしい…!)なんか今日の幸村くん優しいねっ」

「へえ…それは普段の俺は優しくないってことかな」

「いや違うけど…あれ、でも違くないのかな……」



優しいけどたまにいじわるだし……
この場合どっち?
いや、でも私に対してだと大体いじわるなことが多いような……………ううん気のせい!
………気のせい…だよね?

なんて真剣に考えていたら、いつのまにかもうみんなは外に出ていた。
慌てて私も追いかける。



「真田くん、おじゃましました」

「ああ。気をつけて帰れ」



外に出ると、そこは真っ暗だった。
まあ当たり前だよね、もう9時過ぎだもの……

お母さん心配してるかな、なんて思いながら一歩踏み出す。



「帰ろうか、花島さん」

「うん!」

「あれ、お前ら一緒に帰んの?」

「そうだよ丸井くん」

「ふーん……」



あ、れ…………??

…どうやらちょっと機嫌が悪いらしい、丸井くんは眉をひそめてこちらを見た。



「花島はここから自分の家までの道分からないんだろい。幸村は花島の家知ってんの?」

「以前寝ている花島さんをブン太たちが送っていった時に一緒に行ったじゃないか」

「…………そっか。確かに」

「ふふ、一緒に帰りたいの?」

「っな、ち、ちげえよ!」

「そう?やせ我慢は良くないよ?」

「………別に…」

「ふーん…………じゃあ帰ろうか花島さん」

「へ???」



傍観者となっていた私は、急に話を振られてなにがなんだか分からなかった。

え、なに?帰るの?



「うん……?」



とりあえず返事をしておいた、その時だった。
頬を赤く染めた丸井くんが私の腕を引っ張ってきたのは。



「えっ、なに?」

「や、や、や、やっぱり俺も一緒に帰るっ!」

「ええっ!!幸村くんとせっかくの2人っきりなのにー!!!」

「ジャッカルもだ!」

「えっ、俺もかよ…」



なんで?どうしてこうなった。
せっかく幸村くんが私を送ってくれるって言ってくれたのに。
2人っきりで帰れると思ったのに。
あわよくばまた手を繋いだり……とか……幸村くんの愛の言葉が聞けたり……とか……えへへへへへへ…………、って思ってたのにいいい!!!



「んー……2人が来るなら俺はいらないかな?」

「いるよ!いるいる!幸村くんが一緒じゃないと私泣いちゃう……っ!!」

「ふふ、勝手に泣いてなよ」

「うわあああ幸村くんが冷たいいいいいっ!!」



さっきまで優しかったような気がしてたのに…!





一緒に帰ろう

(つかの間の優しさだった…)





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