「ありがとうございましたー」



そんな声を店員さんに掛けられつつも、私たちは外へ出る。

結局、あれから私は10分くらい悩みぬいて、ようやくフルーツゼリーに決めることができました。
桃やみかん、パイナップルなどの5種類のフルーツとナタデココが入っていて、見た目的に涼しそうなやつだ。
結構サイズが大きめだから、小腹が空いたときには最適かもしれない。


そして、行きと同様、2人きりでの帰り道。
私たちが歩くたびにガサガサとビニール袋がざわめく。
私がパンなどが入っている袋を持って、彼は飲み物が入っている袋を持ってくれていた。
私に軽いほうを渡してくれたのは、きっと幸村くんの気遣いなんだろう。

ああ、やっぱり優しい……!(たまに意地悪なところもあるけれど)
ていうかますます惚れちゃうよーっ!
まあ、もうすでにべた惚れなんだけどね!


もし……彼が旦那さまだったら、幸せな家庭が出来そうだよね。
幸村くんとご飯を毎日一緒に食べられるなんて幸せすぎる…!
それで、会社行くときには「いってらっしゃい」って言ってあげるの!
………あれ?
そういえば幸村くんってプロテニスプレイヤーになるのかなあ?
もしプロになったら会社では働かないよね…
ん………待てよ?
それはつまり外国への遠征も多くなるってこと…!?
そ、そんなの嫌だよ、会えなくなるなんて辛い………!

…………って、なんで幸村くんとの結婚を前提にした妄想を脳内で繰り広げてるの!(また変な子だと思われちゃう…!)

いや、でも幸村くんとならぜひ結婚したい。
よ、よし、こうなったら花嫁修行を………………って、そうじゃなくて!
第一、私はまだ彼の恋人でさえもない、ただの知り合いじゃないですか…!


と、自分で自分につっこみを入れていた時のことだった。
考え込んでいるうちに足がもつれて、体が地面へ向かって傾く。



「いっ………いったあああ!」

「どうしたの…………………え?」



くるりと振り向いた幸村くんの目に映ったのは多分、私が派手に転んでる姿だろう。
変なものでも見ているかのような視線が私に注がれる。(やばい、涙が出てきそう)



「なんでそんな何もないところで転べるのかな、すごく不思議なんだけど」

「なんでだろう………ね」

「……ほら、とりあえず立って」

「う、うん」



ゆっくりと立ち上がる。
そのとき足が少しだけ痛んだけれど、別に気になるほどの痛みではなかった。
ふいに幸村くんが私の足元へしゃがみこむ。
すりむいた膝を見てくれているみたいだ。



「どうやら血は出てないみたいだね」

「うん……」

「でもとりあえず、真田の家に戻ったら消毒しないと」

「えっ、だ、大丈夫だよ!」

「全然大丈夫じゃないだろ、もし菌が入ったらどうするつもり?」

「うっ………は、はい分かりました…」



幸村くんに真剣な顔つきできつく言われると、なにも言い返せなくなって、その言葉に従ってしまう。
もしかしてこれが惚れた弱味というやつなのかなあ?

なんとなく叱られているような気持ちになって、私は静かに俯いた。
……幸村くん、きっと怒ってる。
私がこんな所で転んじゃったから。
そして、擦り傷なんて消毒しなくても大丈夫だと言ってしまったから。
なんて馬鹿なことを言ったんだろう、たとえ軽い怪我でも悪化する可能性はあるのに。
そんな簡単なことさえも分からないなんて、私、本当に馬鹿だ………



「……花島さん、別に俺は怒ってるわけじゃないんだよ?」

「………………え?」

「だから、顔を上げて」



言われた通りに顔をあげたら、そこには困ったような表情をしている彼が。



「ほんと…?」

「うん」

「よ、よかったぁぁ!」



ほっと胸をなで下ろす。
安心したせいなのか、つい笑みがこぼれてきて、そのとき私は自分でも分かるほど嬉しそうに笑っていたと思う。



「まったく、きみには適わないな」



穏やかな顔をして、幸村くんがなにかを呟く。
私はうまく聞き取ることができなかった。



「……今なにか言った?」

「いや、なんでもないよ」

「ええっ!気になるよー!」

「ふふ、そんなに気になる?」

「……うん」

「そんな顔しても駄目。絶対に教えないよ」

「い、意地悪ー!」

「ほら、早く行こう」

「!」



私に向かって、幸村くんの空いているほうの手が差し出される。
どういうことなのか理解できなくて、思考と動きが停止した。
こ、これはもしかして手を……!?



「な、なんで?」



相手の表情を窺いながらゆっくりと手を取る私。
「なんで?」、と聞いたら幸村くんは「そんなことも分からないの?」とおかしそうに笑った。



「花島さんが危なっかしいからだろ?」





2人、手を繋いで

(わかってる、私たちはただの友達だってこと)
(自惚れてなんかいないけれど、すごく嬉しかった)





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