「はあ…………」
窓の枠に肘をついて、肩を落としている切原くん。
……そんな彼を見つけたのは、たまたま休み時間に二年生の階の廊下を通ったときのことだった。
いつでも元気はつらつな切原くんなのに、なぜか周りにはどんよりしたオーラが漂っている。
明らかにおかしい、そう感じた私は話だけでも聞いてあげることにした。(だって可愛い後輩だしね!)
「切原くん」
「……………あ、花島先輩」
「どしたの?曇りなのに空なんか眺めて…なにかあった?」
「た、助けて下さいっ!俺殺される!!」
「………え?」
思いつめた顔でいきなりなにを言い出すかと思えば、内容はすごく意味不明なもので。
私はどういうことなのか全く理解できずに、はてなマークを浮かべた。
「殺される……って誰に?」
「そっ、それは、真田副部長とか………」
「そんなことありえないよ」
「いや、それがありえるんスよ!特に危険なのは部長で…!」
「えーっ、それもない!」
私の幸村くんにかぎって、そんなことは絶っっ対にない。(いや、絶対にないと信じてる!)
だって幸村くんは優しいもん、だから全然危険じゃないよね?
まあ、少し………
本当に少し、意地悪なところもあるけれど。
でもでもっ、それも幸村くんの魅力のうちの一つなんだと私は思うの……
ほら、アレだよアレ!
えっと…………そうだ、小悪魔系!!
「でも、なんでそんな切羽詰まってるの?」
「…………じ、実は………」
「実は?」
「今度、テストあるじゃないっスか。それで俺、英語がめちゃくちゃ苦手でいつも赤点なんスよ。そしたら、今回は先輩たちが俺の勉強を見てくれることになっちゃって……」
「切原くんは嫌なの?」
「嫌というか、幸村部長が『せっかく俺たちが教えてあげるんだから、赤点なんかとったらどうなるか分かってるよね』って……!これ完璧に死刑宣告っスよ!ど、どうしよう俺………!!」
「そんな大袈裟な………」
私だったら彼に教えてもらえるなんて幸せだけどなあ……
それに、愛しの幸村くんが教えてくれるなら、すごく頑張れるし!
……ああ、私も彼に教えてもらいたいなあ。
でも、赤点なんてとったことないし、それじゃあきっと教えてもらえないよね……
なんて、落ち込んでいた次の瞬間。
「なにしてるのかな、ここで」
「うわっ!!」
いつものように爽やかに現れた私の王子様こと幸村くんと、それに気付いて大袈裟に飛びのく切原くん。
きゃあああ、こんなところで会えるなんて今日はなんてラッキーなの……!!(し、しかも彼の方から話しかけてくれた!)
これはあれだよね、運命だよね。
えへへへへへーっ!
「ごきげんよう幸村くん!」
「うん、こんにちは」
「今ね、切原くんが…………んぐっ」
「ストーップ!!」
いきなり口を塞がれて、さっきのことは他言するなとでも言うみたいに切原くんは私の言葉を遮る。
そしていきなり話を変え始めた。
「あ、そうだ!」
「なに赤也」
「明後日の勉強会、花島先輩も一緒にやりましょーよ!」
「えっ、わ、私も?」
「ほら、先輩が来てくれたら丸井先輩や仁王先輩もやる気出してくれそうだし!」
「ああ……確かに」
私のほうを見て、切原くんの言葉に頷く幸村くん。
え?なに?
なにに納得したの?
ていうか、私が行くと丸井くんたちがやる気出すってどういうこと?
……………ま、まったく話が見えないんですけど…!!
…でも、どうやら私はテニス部の勉強会に誘われてるらしい。
そして、それには当然のことながら幸村くんも参加するみたいだし……
これは参加しないわけにはいかないよね?
だって、オフの幸村くんに会える大大大チャンスだもん!(やった、私服姿が見れるーっ!!)
「どう?花島さん」
「日曜日だよね?行く!行きたい!」
「ふふ、じゃあ決まりだ」
「よっしゃあ!サンキューっス先輩!」
「っわあ!」
切原くんはすごく嬉しそうにして、私に勢いよく抱きついてきた。
もしかして、勉強会に私がいれば、問題を間違えたときに真田くんや幸村くんが怒りづらいだろうとでも思ってるのかな?(しょうがない、フォローくらいはしてあげよう)
そして、抱きつかれた途端に、すぐさま幸村くんが私たちを引き剥がす。
にっこりして、でもどこか恐ろしさを感じさせる顔で微笑んでいた。
「赤也、ふざけるのも大概にしなよ?」
「ひ、ひいいい!!」
「ふふふ……………さ、行こうか花島さん」
「え?あ、うん」
彼に背中を優しく押されながら、廊下を進む。
首だけ振り返って切原くんに、バイバイ、とだけ言ったら、心なしか彼は少し青ざめているように見えた。
………そんなに幸村くんのさっきの笑顔、恐かったのかなあ…?(私は超かっこよかったと思うんだけど…)
あの空みたいな曇り顔
(赤也くんにはあんな表情、似合わないよ)
title:)DOGOD69
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