「おーい花島、起きろー」
「……ん……ふ、ぇ……」
「………おーい……」
「………んん……」
「………駄目だこいつ」
もうすっかり日が暮れてきて、勉強にも飽きてきたころ。(つーか俺が勉強なんて珍しくね?あ、でも勉強しないと怒られんだよな…………幸村に)
ちらり、と横を見てみたら、すうすうと規則正しい寝息をたてている花島が。
え………なんで寝てんの、こんなとこで。
ここ俺んちだぞ!
お前んちじゃないんだぞ!
つーか俺もジャッカルも隣にいるのになんでそんなに安眠できんだよ!(アホかー!)
「起きねえのか?」
「ああ。まったく起きようとしないし……馬鹿だ、こいつ」
「………」
ジャッカルでさえも言葉を失って、絶句する。
どうやら呆れ果てているようだった。
昔からこうなんだよな、花島って。
周りに男がいてもあんまり気にしないというか、鈍いというか…………とにかく、変なんだ。
お前には恥じらいというものがないのかよぃ、なんてつくづく思う。(でも、変なとこで恥ずかしがるんだよな……)
普通はさ、男しかいない部屋でぐっすり寝るなんてことしないだろい?
彼氏と一緒なんだったらありえるかもしれないけど、あいにく俺達はどっちも彼氏とかじゃないし。
なのに………花島はあまりにも無防備すぎる。
それだけ、俺達が信用されてるってことか?
「これどうする?」
「どーするもなにも………連れてくしかないだろい」
「………だよなあ」
「どーする?」
「いや俺に言われても」
「使えねー」
「なんだよその言い草!」
「ジャッカルのくせにぃー」
「………はあ……」
「よし、ってことで花島んちまでおぶっていくか!もちろんジャッカルが!」
「俺かよ!」
おお、出た出たジャッカルの名台詞!
…………って、そうじゃなくて。
「だってさ、小さくて可愛いこの俺に運ばせる気?」
「お、お前なあ…!!……いや、もういい。お前になに言っても駄目だよな、俺がやる」
「よっしゃさすが大男!」
「誰が大男だ、誰が!」
そんなやり取りをしながら、ジャッカルは花島を背負う。
俺は荷物持ちだ。(本当はこんなことしたくねえけど、今日は仕方ないよな)
ガチャ、と玄関を出れば、外はオレンジ色に染まっていた。
俺達も、沈みかけの太陽によってオレンジ色に染まる。
あー、やっぱジャッカルと花島じゃ全然肌の色が違うんだな。
例えるなら、ビターチョコレートとホワイトチョコレートだ。
うわ、どっちも美味そう。
「なによだれ垂らしてんだ?」
「え?あ、いや、なんでもない」
「???」
「ほ、ほら、行くぞ!花島が風邪ひいたらどーすんだよぃ!」
「ハイハイ、」
慌ててジャッカルの背中(………というか花島の背中?)を押しながら、早く早くと急かす。
のんきな寝顔だな……とか思いつつ。
でも、花島のやつ可愛すぎだろい、なんて不覚にも思ってる自分がどこかにいた。
そして、すうすうと寝息をたてる唇にどきりとして、思わず目を逸らす。
「ん……ぅ」
「……!!」
「…ゆ、き……む…ら……く……」
「……夢の中でも幸村かよ」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもない…」
幸村幸村って、毎日さ。
会う度にその名前を好きなやつの口から聞かされて。
こんなに悲しいことってないと思うんだけどマジで。
俺は誰よりも花島に近い位置にいるはずなのに、でも俺の想いは届かない。
でも、いつかきっと……、なんて薄い可能性にかけてるんだ。(………情けなくて笑えるぜぃ…)
「………………あ」
「あ?どうしたんだジャッカ………ル!!?」
「あれ?二人とも奇遇だね」
「幸村っ!?」
ジャッカルが足止まったから、一体なんなんだと思い視線を前に戻せば、そこには何故か、あの幸村が。(ななな、なんでここに!)
いきなりすぎてマジびっくりした……!
「こんなところで、一体どうしたんだ?」
「真田と近くの公園でテニスしてたんだ。真田とはもう別れたけどね」
「へえ、じゃあ俺達も行けばよかったな、ブン太」
「そ、そうだな」
「………そういえば、ジャッカルの後ろは……誰?」
「ああ、花島だぜ。一緒にブン太んち行ってたんだけど、途中で寝ちまったんだ」
「そうか…」
そう呟いて、ジャッカルの背中で眠っている花島の顔を覗き込む幸村。
顔にかかっていた彼女の髪を、優しい手つきで退けた。
「寝顔は天使みたいなのにね」
「「それ同感」」
「まあ、それを本人に言ったら調子にのるだろうけど」
「幸村が言ったのなら尚更だぜぃ。花島のやつ、浮かれて騒ぎだすかもなー」
「あはは、それは困る」
「………うぅ…」
「あ…起きたかな?」
「いや……、まだじゃねえか?」
「ふふっ、ジャッカルの言う通りだったね」
きっと幸村も今の花島を見て、俺と同じように可愛いとか思ってんだろうなあ。
確かに寝顔は天使だし。
独り占めしたい、と本気で思う。(まあそれは無理な話だけどさ)
「ゆ、き……んん……」
「……雪?」
「違う違う。どーせ、幸村の夢でも見てるんだろい?」
「そう思うかい?」
「ほら、こんなににやけてるし」
「ああ……確かに」
苦笑する幸村。
それに、心なしかジャッカルも苦笑していた。(よだれだけは勘弁してくれよ、なんてさ)
……花島が見てるのは多分幸村の夢で。
どーせ幼なじみということ以外関係のない俺は夢の中に出てこないんだろうな………なんて思っていた矢先に、花島の唇から呟かれる。
「……ま、……るい……く……ん………」
「っ!!」
「………へへへ…」
なんなんだよこの可愛さはっ…!!
眠っていつつもへらへらと笑う花島に、たまらなく愛しさが込み上げてくる。
つーか今、確実に俺の名前呼んだよな!?(やべ、マジ嬉しいんだけど!)
「ブン太、顔がにやけてるよ」
「べっ、べつに俺は………その……」
「………ふふ、花島さんに負けず劣らずわかりやすいな」
……だって、仕方ないだろい?
好きな人の夢の中に自分が出てるなんて、嬉しすぎるんだから。
幸村だけじゃなくて、俺もだなんて。
マジやばい。嬉しい。
いつだって花島は幸村を中心として考えてるけど、でも、その中に少しでも俺の存在があるのなら………
今は、それだけで十分。
俺はそんなに嫉妬深くない
(………はずだったけど、でもやっぱり好きだから嫉妬くらいしちゃうよな?)
title:)DOGOD69
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