あの日以来私はこの世界で暮らすようになった。
身寄りのない私を受け入れてくれた幸村家には、すごくすごく感謝してる。
何ひとつ不自由のない生活。
精市と一緒にいられる生活。
私は今、すごく幸せな毎日を送ってる。
「おはよう、みんな」
私は精市と同じ立海大附属に通うこととなって、彼が部長を務めるテニス部では毎朝のように朝練が行われていた。
もちろん、私も一緒に登校している。
「おー、幸村の彼女か」
「その呼び方やめてってば仁王」
「プリッ」
男子テニス部の子たちともずいぶん仲良くなれたと思う。
個性的な集団だけれど、面白いし楽しいし、私は好き。
「ソラ、なに話してるの」
「……あ、精市」
振り向けば、そこにはテニスウェアに着替えた彼。
羽織っているジャージはどうして落ちないのか、いつも不思議でならない。(でも過去に1人、精市のジャージを落とした子がいるらしい)
「朝練始めるよ」
「じゃあ私はいつもの所で見てるから」
「ああ」
そうして私はいつものフェンス近くへと行く。
ここから朝練を見学するのが日課になりつつある、この頃。
この学校に編入して部活動を決めるとき、私は精市にテニス部のマネージャーにならないかと誘われた。
……けれど、私はやっぱりプレイヤーの方が性に合ってるから、女子テニス部へ入ることにしたのだ。
で、女子テニス部は朝練がないから、こうしてゆっくりと彼の朝練風景を見ていられるというわけ。
「やっぱりすごいなあ、男子は」
みんなを見て、つくづくそう思う。
だって女子とは練習量が違う。
全国で1、2を争う程のレベルらしいから、やっぱり努力の仕方も桁違い。
みんなすごいけど、中でも精市は………本当に強い。
こっちに来て、本当に神の子と呼ばれているって知った時は衝撃だった。
あの時は彼の冗談だと思っていたけれど…………
それと、前に2人で試合した時は相当な手加減をしてくれていたということも分かった。
だってレギュラーや他の学校の人たちと試合する時の彼の表情、視線、構え方………すべてが違うもん。
本当に五感を奪っちゃうところもびっくりしたけれど。
「たるんどる!」
遠くで真田の声がした。
きっとまた赤也でも叱ってるんだろうな、なんて思いながら視線をさまよわせる。
仁王は日陰で座ってるし、丸井はガムを膨らませてて……………
その時、精市と目があった。
にっこりとした顔で近付いてくる彼に恐怖を感じたのは何故だろう?
「今、誰を見てた?」
フェンス越しに見る彼は、心なしか拗ねているように見えた。
「………なんだかんだで精市もやきもち妬きだよね?」
「ソラほどじゃないよ」
「私も精市ほどじゃない」
「まったく、素直じゃないな」
「う、うるさい!早く練習に戻りなよ!」
「ふふ、そうする」
いつになったらこの人に口で勝つことができるんだろう……………いや、一生無理だ。
だって相手は幸村精市、だもんね。
あの暑い暑い夏のこと。
一緒に過ごした1ヶ月間。
全てが忘れられない思い出だよ。
あなたに出会えて、本当に良かった。
幸せな日々はこれからも
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